パイプライン管理とは、見込み顧客や案件が営業プロセスのどのフェーズにいるかを可視化し、そのデータをもとに分析・改善を続けるマネジメント手法です。
SFAやCRMを導入していても、月末まで受注見込みが読めない、案件がどこで止まっているのか分からないという状態は起こります。
こうした場合、問題はツールそのものではなく、管理を始める前の設計にあることが少なくありません。
特に重要なのは、
- フェーズをどう区切るか
- どの条件で次のフェーズへ進めるか
- どの案件をパイプラインに入れるか
の3点です。
この基準が曖昧なまま入力を始めると、担当者ごとにフェーズの意味が変わり、集まった数字を売上予測や改善に使いにくくなります。
本記事では、BtoBマーケティングを80社以上支援してきたSells upが、パイプライン管理の定義と目的、BtoB営業で運用する5つのステップ、よくある失敗パターン、さらに案件の質を左右する「入口の設計」まで整理して解説します。
営業パイプライン管理とは?定義と「パイプ」という言葉が意味するもの
営業パイプライン管理とは、見込み顧客や案件が営業プロセスのどのフェーズにいるかを可視化し、その進捗をもとに分析・改善を行う管理手法です。
「パイプライン」という言葉は、石油や天然ガスを運ぶ管(パイプ)に由来します。営業活動では、初回接触から提案、見積、受注までの流れを1本の管に見立て、その中を案件が進んでいくイメージで捉えます。
各フェーズに何件の案件があるのか、どこで停滞しているのか、次に何をすべきかを把握できる状態をつくることが、パイプライン管理の基本です。
営業パイプライン管理によって、主に次のことを確認しやすくなります。
- 各案件が現在どのフェーズにいるか
- どのフェーズで案件が停滞しているか
- 今後どの程度の受注が見込めるか
- 営業担当者ごとの判断基準にばらつきがないか
パイプライン管理とファネルの違い|それぞれが担う役割
「ファネル」と「パイプライン」は似た場面で使われますが、見る対象が異なります。
ファネルは、認知から検討、購買へ進むにつれて対象者が絞られていく様子を捉える考え方です。主に、マーケティング施策によってどの程度のリードが流入し、次の段階へ進んでいるかを見る際に使われます。
一方、パイプラインは、個々の案件が営業プロセスのどこにいるかを管理する考え方です。案件ごとの進捗を確認し、「次のフェーズへ進めるために何が必要か」を判断する際に使います。
| 観点 |
ファネル |
パイプライン |
|---|---|---|
| 視点 |
顧客の検討プロセス |
営業活動・案件進捗 |
| 管理対象 |
リード全体の流れ |
個々の案件 |
| 主な用途 |
流入・転換率の把握 |
案件管理・売上予測 |
| 確認すること |
どの段階で人数が減っているか |
どのフェーズで案件が止まっているか |
両者はどちらか一方を使うものではありません。
マーケティングで獲得したリードが、その後どのように案件化し、受注まで進んだのかを確認するには、ファネルとパイプラインをつなげて見る必要があります。
なぜBtoBでパイプラインの可視化が難しいのか
BtoBでは、案件の進捗を単純に把握しにくい場合があります。
1つ目の理由は、意思決定に複数の関係者が参加することです。
担当者との商談が進んでいても、上司や決裁者、購買部門などとの確認が残っている場合があります。Gartnerでは、BtoBの購買には5〜10人程度の関係者が関わるとされています。そのため、営業担当者の感覚だけでは案件の進捗を正確に捉えにくくなります。
2つ目は、検討期間が長くなりやすいことです。
初回接触から受注までに数か月以上かかる商材では、途中で検討が止まったり、予算や優先順位が変わったりすることがあります。更新されない案件をそのまま残していると、実際の状況とパイプライン上の数字がずれていきます。
3つ目は、担当者ごとにフェーズの判断が異なりやすいことです。
同じ「提案中」というフェーズでも、「資料を送った段階」を指す担当者と、「決裁者へ提案済み」を指す担当者が混在すると、案件数や転換率を比較できません。
そのため、BtoBのパイプライン管理では、案件を登録するだけでなく、「どの状態をどのフェーズとするか」を共通化することが重要です。
BtoBマーケティングの全体プロセスについては、こちらの記事でも解説しています。
パイプライン管理を行う3つの目的
パイプライン管理の目的は、営業活動を可視化し、そのデータをもとに判断と改善を行える状態をつくることです。
入力や更新そのものが目的ではありません。集めたデータを、売上予測やボトルネックの特定、マーケティング施策の評価に使える状態にして初めて、管理する意味が生まれます。
主な目的は、次の3つです。
- 売上予測の精度を高める
- 営業プロセスのボトルネックを把握する
- マーケティング施策の効果を確認する
売上予測の精度を高める
パイプラインを管理すると、各フェーズに何件の案件があり、どの程度の金額が見込まれているのかを把握できます。
たとえば、クロージングフェーズに5件の案件があり、過去の転換率が60%であれば、その実績をもとに今後の受注件数を見積もることができます。
売上予測では、主に次の指標を確認します。
- 案件数:各フェーズに現在いくつの案件があるか
- フェーズ転換率:次のフェーズへ進んだ案件の割合
- 平均滞留日数:各フェーズに案件が留まっている平均期間
- 平均案件単価:案件1件あたりの平均金額
ただし、フェーズごとの転換率をそのまま個々の案件の「受注確率」とみなせるわけではありません。目安は自社の実績から算出します。
重要なのは、過去の実績と現在の案件数・金額を照らし合わせ、感覚だけに頼らず売上見込みを確認できるようにすることです。
ボトルネックを数字で把握する
パイプライン管理では、どのフェーズで案件が止まりやすいのかを確認できます。
たとえば、ヒアリングから提案までは順調に進んでいる一方で、提案から見積への転換率だけが低ければ、その周辺に改善すべき点がある可能性があります。
ただし、転換率が低いだけで「提案内容が悪い」と断定することはできません。
原因としては、
- 提案内容が顧客の課題と合っていない
- 決裁者が商談に参加していない
- 予算や導入時期を確認できていない
- そもそも対象外の案件が多く含まれている
など、複数の可能性があります。
パイプライン管理の役割は、原因を自動的に特定することではなく、「どこを詳しく確認すべきか」を数字から見つけることです。
そのうえで商談内容や失注理由を確認し、提案方法や営業プロセスを見直します。
マーケティング施策の効果を確認する
リードの獲得経路と、その後の商談・受注状況をつなげて管理できれば、マーケティング施策の評価にも活用できます。
たとえば、
- 展示会
- Web広告
- SEO・コンテンツマーケティング
- ウェビナー
- 紹介
といったチャネルごとに、獲得したリード数だけでなく、その後の商談化率や受注数、受注金額まで確認します。
リード数が多いチャネルが、必ずしも受注への貢献が大きいとは限りません。
たとえば、展示会経由のリード数は多いものの商談化率が低く、別のチャネルではリード数は少なくても受注につながる割合が高い、といったことがあります。
この場合も、一つの指標だけで投資先を決めるのではなく、獲得単価、商談化率、受注率、受注金額などを合わせて確認します。
営業パイプラインとリードの流入経路をつなげて見ることで、マーケティング施策を「何件リードを獲得したか」だけではなく、「その後どこまで進んだか」まで含めて評価できるようになります。
パイプライン管理を始める前に確認すべき「入口の設計」
パイプライン管理が機能しない場合、管理方法だけでなく、どのリードや案件をパイプラインに入れるかという「入口の設計」を見直す必要があります。
どのような案件を営業が追うのかが曖昧なままだと、初期フェーズに対象外の案件が混ざり、転換率や滞留日数を見ても原因を判断しにくくなります。
そのため、パイプラインを整える前に、マーケティングと営業の間で「どの状態になったら営業へ渡すのか」を決めておくことが重要です。
パイプラインに入れるリードの条件を決める
よくあるのは、営業へ渡す基準が曖昧なまま、とにかく案件数を増やしてしまうケースです。
たとえば、ターゲット企業に当てはまらないリードや、検討状況がまだ分からないリードまで同じパイプラインに入れると、初期フェーズの案件数だけが増えます。
その結果、転換率が低くなっても、
- リードの条件が合っていないのか
- 営業の対応方法に課題があるのか
- 提案内容に課題があるのか
を切り分けにくくなります。
次のような状態がある場合は、パイプラインそのものより先に、入口の条件を確認します。
- 初期フェーズには案件が多いが、その後に進む案件が少ない
- 営業へ渡した後に「対象外」と判断されるケースが多い
- 失注理由が「タイミングが合わなかった」など曖昧なものに偏っている
- マーケティングと営業で「営業へ渡すべきリード」の認識が異なる
こうした場合は、リードクオリフィケーション(見込み顧客の選別)の仕組みを整理しておくと、パイプラインへ入れる対象を揃えやすくなります。
MQLとSQLの定義を決める
パイプラインの入口を整理する際に使われるのが、MQLとSQLです。
- MQL:マーケティング側で、営業が確認する対象と判断したリード
- SQL:営業側で、商談として追う対象と判断したリード
重要なのは、MQLやSQLという名称そのものではなく、「どの条件を満たしたら次の担当へ渡すのか」を両部門で合意しておくことです。
MQLとSQLの違いと定義の作り方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
MQLの条件を考える際は、主に「属性」と「行動」の2つを確認します。
属性:自社のターゲットに合っているか
- 業種
- 企業規模
- 部署・役職
- 自社が対象としている地域や商材条件
行動:どのような接点があったか
- 資料ダウンロード
- ウェビナー参加
- サービスページの閲覧
- メールのクリック
- 問い合わせや相談
ここで注意したいのは、行動データだけで購買意欲を断定しないことです。
たとえば、サービスページを何度も閲覧していても、情報収集をしているだけの場合があります。反対に、閲覧履歴が少なくても、明確な課題を持って問い合わせる企業もあります。
そのため、行動は営業が確認する対象を絞るための材料として使い、必要に応じて属性や営業側の確認結果と組み合わせます。
弊社では、案件によって「属性スコア20点以上かつ行動スコア40点以上」といった条件を使うことがありますが、これはSells upでの設計例であり、一般的な基準ではありません。
実際の条件は、自社の商談・受注データを見ながら設定します。
MQL判定基準の設計手順については、リンク先の記事でも整理しています。
スコアリングは営業が確認する対象を絞るために使う
リード数が多い場合は、属性や行動をもとにスコアリングを行い、営業が確認する対象の優先順位を付ける方法があります。
たとえば、
- ターゲット企業に合っている
- 特定の資料をダウンロードした
- サービスページを複数回閲覧した
- 一定期間内に複数の接点がある
といった条件を組み合わせて、確認対象を絞ります。
ただし、スコアが高いことと購買意欲が高いことは同じではありません。
スコアリングの目的は、機械的に「買う可能性が高い人」を決めることではなく、営業が優先して確認する対象を整理することです。
スコアリングモデルの設計と運用でも解説していますが、運用開始後は「どのスコア帯から商談につながったか」を確認し、条件を見直します。
配点の決め方として、受注したリードとそうでないリードの行動を比較し、ロジスティック回帰を用いて統計的に重みを検討する方法もあります。
弊社が複数の支援先のデータを分析した例では、RFE(Recency・Frequency・Engagement)の重みとして、
- Engagement:0.45
- Recency:0.385
- Frequency:0.165
という値を使っています。
これもSells upでの設計例であり、そのまま他社へ適用する基準ではありません。
重要なのは、特定のスコアや閾値を採用することではなく、「なぜその条件で営業へ渡すのか」を説明できる状態にすることです。
入口の条件が揃うことで、パイプラインに入った後の転換率や滞留日数も比較しやすくなります。
営業パイプライン管理を実践する5ステップ
パイプライン管理を機能させるうえで重要なのは、担当者ごとに判断が変わらない状態をつくることです。
そのためには、次の3点を押さえます。
- フェーズの定義を曖昧にしない
- 入力したデータを実際の判断に使う
- マネージャー自身がパイプラインを確認し、改善に活用する
ここからは、実際にパイプライン管理を始める手順を5つに分けて解説します。
Step.1:自社の営業プロセスを整理する
最初に、自社の営業プロセスを整理します。
一般的なBtoB営業では、次のような流れがあります。
- リード発生
- 初回アポイント
- ヒアリング
- 提案
- 見積
- 交渉・クロージング
- 受注
ただし、この流れをそのままフェーズとして採用する必要はありません。
重要なのは、営業担当者が何をしたかではなく、顧客の検討がどこまで進んだかを基準に区切ることです。
たとえば、「初回訪問済み」「再訪問予定」といった営業側の行動ではなく、「課題を確認できた」「提案内容について社内検討に進んだ」といった案件の状態で管理します。
フェーズを細かくしすぎると更新の負担が増え、反対に粗すぎると、どこで案件が止まっているのか分かりにくくなります。フェーズ数に一律の正解はありません。自社の営業プロセスを把握できる必要最小限の数から始めます。
その後、実際の運用を見ながら必要に応じて調整します。
Step.2:フェーズ移行条件を明確にする
フェーズを決めたら、「どの状態になったら次へ進めるのか」を定義します。
判断基準は、「手応えがある」「検討が進んでいる」といった感覚ではなく、できるだけ事実で確認できる形にします。
| フェーズ移行 |
曖昧な定義 |
明確な定義の例 |
|---|---|---|
| ヒアリング → 提案 |
顧客の課題をある程度把握した |
課題・導入目的・関係者・想定時期など、提案に必要な情報を確認できている |
| 提案 → 見積 |
提案に手応えがあった |
提案内容について顧客側で検討を進める意思が確認でき、見積提示を求められている |
| 見積 → クロージング |
受注できそうな雰囲気がある |
社内稟議や契約手続きに進むことが確認でき、次の予定が決まっている |
条件は、すべての企業で同じにする必要はありません。
たとえば、BANTのような考え方を使う場合も、4項目すべてを確認しなければ次へ進めないと決めるのではなく、自社の営業プロセスに必要な条件を選びます。
重要なのは、同じ案件を見たときに、担当者によってフェーズの判断が大きく変わらない状態をつくることです。
Step.3:フェーズごとに確認するKPIを決める
フェーズの定義ができたら、どの数字を見るかを決めます。
基本となるのは、次の4つです。
| 指標 |
定義 |
主な用途 |
|---|---|---|
| 案件数 |
各フェーズに現在ある案件の件数 |
案件の流量を把握する |
| フェーズ転換率 |
次のフェーズへ進んだ案件の割合 |
停滞しやすい箇所を確認する |
| 平均滞留日数 |
各フェーズに案件が留まっている平均期間 |
長期間止まっている案件を見つける |
| 平均案件単価 |
案件1件あたりの平均金額 |
売上見込みを確認する |
これらを継続して見ることで、
- 特定のフェーズだけ転換率が下がっている
- 以前より滞留期間が長くなっている
- 案件数は増えているが案件単価が下がっている
といった変化を確認できます。
すべての指標を毎回細かく見る必要はありません。自社の営業課題に応じて、特に重視する指標を決めておきます。
Step.4:管理方法とツールを決める
次に、どのツールで管理するかを決めます。
選定基準は、単純な営業人数だけではなく、案件数、更新頻度、複数人での共有が必要か、どこまで分析したいかで判断します。
| 状態 |
管理方法の例 |
|---|---|
| 案件数が少なく、まず管理方法を試したい |
Excel・スプレッドシート |
| 複数の営業担当者でリアルタイムに共有したい |
SFA・CRM |
| マーケティングデータと営業案件をつなげたい |
MA+SFA・CRM |
Excelやスプレッドシートでも、案件数が少ない段階であれば十分に管理できます。
一方で、案件数や担当者が増えると、更新漏れ、重複入力、集計の手間が増えやすくなります。この段階では、SFAやCRMを使ったほうが運用しやすくなります。
最初から高機能なツールを導入することよりも、先にフェーズや入力項目を決めておくことが重要です。
後からSFAへ移行する場合も、管理項目やフェーズが整理されていれば、移行時の設計を進めやすくなります。
Step.5:定期的にレビューする仕組みをつくる
最後に、入力したデータを確認する場を設けます。
パイプライン管理では、入力だけを求めると、営業担当者にとって単なる報告作業になりやすくなります。
そのため、営業会議や定例ミーティングで、実際にパイプラインのデータを使います。
たとえば、週次で確認する場合は、
- 各フェーズの案件数と変化を確認する
- 滞留している案件と、その理由を確認する
- 次に進めるための対応を決める
- フェーズが進んだ案件の共通点を確認する
といった流れで進めます。
重要なのは、会議の回数ではなく、入力した情報が実際の意思決定に使われることです。
担当者にとっても、「入力したデータをもとに案件の進め方を相談できる」「優先順位を決められる」という状態になれば、パイプライン管理は単なる報告作業ではなく、営業活動を進めるための仕組みとして機能しやすくなります。
パイプライン管理でよくある3つの失敗と対処法
パイプライン管理がうまく機能しない場合、原因はツールそのものではなく、設計や運用にあることが少なくありません。
特に多いのは、次の3つです。
- 入力が定着しない
- フェーズ定義が曖昧で比較できない
- パイプラインに入れる案件の条件が決まっていない
失敗パターン①:ツールを入れたが入力が定着しない
SFAやCRMを導入した直後は入力されていても、数か月後には更新されなくなるケースがあります。
株式会社ハンモックが2021年9月30日〜10月2日に、SFAを導入したことがある従業員300名以上の企業の経営者・役員305名を対象に実施した調査では、SFAの利用状況について「導入し全ての機能を使いこなしている」が27.6%、「導入し全ての機能ではないが使っている」が49.8%、「導入しデータを入力するのみ」が7.5%、「導入したが現在何も利用していない」が5.9%でした。後半の3つを合わせた63.2%が、一部の機能しか使っていない、または使っていない状態にあたります。
SFAを導入しただけで、十分に活用できる状態になるわけではないことが分かります。
入力が定着しない理由の一つは、営業担当者にとって「なぜ入力するのか」が見えにくいことです。
マネージャー側では案件管理のために必要でも、担当者から見ると、単なる報告作業になっていることがあります。
対処するには、入力したデータを実際の判断に使います。
たとえば、週次の営業会議で、
- 滞留している案件を確認する
- 次に取るべきアクションを相談する
- フェーズが進んだ案件の共通点を確認する
といった形でデータを使います。
「入力した内容が自分たちの営業活動に使われている」と分かる状態をつくることが、運用を続けるうえで重要です。
失敗パターン②:フェーズ定義が曖昧で数字を比較できない
同じ「提案フェーズ」でも、担当者によって意味が異なることがあります。
たとえば、
- 資料を送っただけ
- 担当者へ提案した
- 決裁者へ提案した
- 見積提示まで進んでいる
といった異なる状態が、同じフェーズに入っているケースです。
この状態では、提案フェーズの案件数を集計しても、中身が揃っていないため転換率や売上見込みを比較しにくくなります。
対処するには、前述したように、フェーズ移行条件を事実で確認できる形にします。
また、一度決めた定義を固定し続けるのではなく、実際の運用で判断に迷うケースが出たら見直します。
たとえば四半期ごとなど、定期的にフェーズ定義を確認する場を設けておくと、実際の営業プロセスとのずれを修正しやすくなります。
失敗パターン③:パイプラインに入れる案件の条件が決まっていない
フェーズ管理を細かく設計しても、そもそも営業が追うべきではない案件までパイプラインに入っていると、数字を正しく解釈しにくくなります。
たとえば、ターゲット企業ではないリードや、まだ商談として追う段階ではないリードまで登録されていると、初期フェーズの件数だけが増えます。
その結果、転換率が低くても、
- 営業の進め方に課題があるのか
- 提案内容に課題があるのか
- そもそも対象案件の条件が合っていないのか
を切り分けにくくなります。
そのため、パイプライン管理では「どう管理するか」と同じくらい、「何を入れるか」を決めることが重要です。
実際に弊社が支援した株式会社日本テレビアート様では、広告を始める前に、サービス内容や提供価値を整理し、どのような顧客を対象にするのかを明確にしました。
その後、HubSpotを使ってリード情報やステータスを管理する基盤を整え、Meta広告によるリード獲得を開始しています。広告予算は月10万円程度で、多い月には100件を超えるリードを獲得しました。
また、株式会社CLUE様の支援でも、最初にKPIを整理し、ターゲット属性に合致するリード数と商談獲得数を確認する設計から始めています。
そのうえで、Account EngagementとSalesforceを連携し、一定の行動条件に該当したリードをインサイドセールスへ連携する仕組みを構築しました。
重要なのは、すべてのリードを同じ条件で営業へ渡すことではなく、自社にとって「営業が確認すべき対象」を決めておくことです。
パイプライン管理をすぐに始めなくてよい場合
パイプライン管理は、すべての営業組織が同じタイミングで始める必要はありません。
たとえば、次のような状態では、先に別の準備をしたほうがよい場合があります。
- 進行中の案件が少なく、一件ずつ状況を把握できている
- 営業プロセスがまだ固まっておらず、案件ごとに進め方が大きく異なる
- 受注・失注の記録がほとんど残っていない
この段階で細かなフェーズ管理やSFA運用を始めると、管理のための作業負担に対して、得られる情報が少ないことがあります。
まずは、
- どのような案件が受注したか
- どの段階で失注したか
- 失注理由は何だったか
- どのような顧客が自社に合っているか
といった情報を記録するところから始めます。
案件数や営業担当者が増え、一人では全体を把握しにくくなってきた段階で、パイプライン管理を本格化する方法もあります。
重要なのは、パイプライン管理をするかしないかではなく、自社の営業状況に合った順番で整えることです。


MAとSFAを連携させてパイプラインを自動化する
MAとSFAを連携すると、マーケティングで取得したリード情報を営業へ引き渡し、その後の商談進捗まで一連の流れで管理しやすくなります。
役割を大きく分けると、MAはリードの情報や行動を管理し、営業へ渡す対象を整理する役割、SFAは商談化した後の進捗を管理する役割を担います。
重要なのは、ツールを連携すること自体ではなく、「どの条件で営業へ渡すのか」「渡した後にどう管理するのか」を先に決めておくことです。
MAで営業へ渡す対象を整理する
MAでは、見込み顧客の属性や行動履歴をもとに、営業が確認する対象を整理できます。
MAを使いこなす運用設計の手順でも解説していますが、パイプライン管理では、たとえば次のような連携が考えられます。
- 一定の条件を満たしたリードを営業担当者へ通知する
- 企業名・担当者情報・閲覧履歴などをSFAへ同期する
- 営業対応後の結果をMA側へ戻し、その後の配信対象を調整する
- 一定期間動きがないリードを、営業対象から外してナーチャリングへ戻す
ここでも、スコアが一定値を超えたことだけを理由に、機械的に商談として扱う必要はありません。
スコアや行動履歴は、営業が確認する対象を絞るための材料として使い、属性や営業側の確認結果と組み合わせます。
また、MAからSFAへ連携した時点で必ず商談レコードを作成するのか、まずはリードやタスクとして営業へ渡すのかは、営業プロセスに応じて設計します。
SFAで商談の進捗を管理する
営業が対応を始めた後は、SFAで案件の進捗を管理します。
パイプライン管理では、主に次のような機能を使います。
- フェーズ別の案件一覧:各案件が現在どのフェーズにいるかを確認する
- 滞留案件の確認:一定期間動いていない案件を抽出する
- 売上予測:現在の案件金額やフェーズ、過去実績などをもとに見込みを確認する
- 営業活動の記録:次回予定や対応履歴を案件に残す
SFAを使えば自動的に正確な売上予測ができるわけではありません。
フェーズの定義や案件金額、受注予定日などが適切に更新されていることが前提になります。
そのため、MAとSFAを連携する場合も、システム連携とあわせて入力・更新ルールを整えておくことが重要です。
Account EngagementとSalesforceを使った連携例
SalesforceのAccount Engagement(旧Pardot)の機能と活用法とSalesforceを組み合わせると、マーケティング側の接点情報と営業側の商談情報を連携して管理できます。
たとえば、次のような流れです。
- 見込み顧客が資料をダウンロードする
- Account Engagementに行動履歴が記録される
- 属性や行動が自社で決めた条件を満たしたら営業へ通知する
- Salesforce上で担当者が対応し、必要に応じて商談を作成する
- 商談の進捗や結果をSalesforceへ記録する
- 営業対応の結果に応じて、Account Engagement側の配信対象やナーチャリングを調整する
ここで重要なのは、「スコアが閾値を超えたら自動で商談を作る」という一つの運用に固定しないことです。
営業へ渡した時点ではまだ商談化していないケースもあるため、自社のMQL・SQLの定義や営業プロセスに合わせて、どのタイミングで商談レコードを作成するかを決めます。
また、営業データとマーケティングデータをつなげることで、
- どの施策から獲得したリードが商談につながったか
- どのコンテンツに接触したリードが受注したか
- 営業へ渡した後にどの程度商談化したか
といった分析もしやすくなります。
ただし、特定のコンテンツ閲覧と受注に関連が見られたとしても、その閲覧が受注の原因とは限りません。複数の接点を含めて評価する必要があります。
BtoB向けMAツールの選定基準については、こちらの記事で詳しく解説しています。
パイプライン管理をマーケティング組織の観点から見直す
Salesforceの画面設定や、商談フェーズ・レポートの作り方はSalesforceでのパイプライン管理の設定手順で解説しています。
パイプライン管理は営業部門だけの仕組みではありません。
マーケティング、営業、経営が同じデータを見ながら判断できる状態をつくることで、リード獲得から受注までを一つの流れとして捉えやすくなります。
パイプライン管理を部門共通の判断材料にする
パイプライン管理が定着すると、営業会議や経営会議でも、感覚ではなく数字をもとに話しやすくなります。
たとえば、
- 現在どのフェーズに何件の案件があるか
- どのフェーズで滞留が増えているか
- 過去の転換率と比べて進捗に変化があるか
- 売上目標に対して案件数や金額が足りているか
といった情報を共通して確認できます。
このとき重要なのは、単に売上予測の数字を出すことではありません。
マーケティングは「どの施策から案件が生まれているか」、営業は「どの案件が次に進みそうか」、経営は「目標に対してどの程度不足しているか」を同じデータから確認できる状態にします。
デマンドジェネレーション(需要創出活動)の全体設計の観点でも、パイプラインはマーケティングで獲得したリードを営業へつなぎ、その後の商談・受注までを確認するための重要な接点になります。
パイプライン単体で考えるのではなく、その前段にあるリード獲得やナーチャリング、後段にある受注後の顧客データまでつなげて見ることで、どこを改善すべきか判断しやすくなります。
パイプライン管理の設計で確認している5つのこと
Sells upでは、パイプライン管理の支援をツールの操作方法から始めるのではなく、先に管理する対象と判断基準を整理しています。
主に確認するのは、次の5点です。
- KPI設計:どの数値を見れば、営業・マーケティングの進捗を確認できるか
- ICP(理想顧客プロファイル)の整理:どのような企業・担当者を対象とするか
- MQL・SQLの定義:どの条件でマーケティングから営業へ渡し、どの状態を商談として扱うか
- ツール選定・初期設定:Account EngagementやSalesforceなど、必要なデータを管理できる構成を選ぶ
- 運用設計:入力ルール、レビュー方法、見直しの頻度を決める
この5点がすべて最初から決まっている必要はありません。
たとえば、すでにSFAを導入しているもののフェーズ定義が曖昧な場合は、ツールを変更する前に営業プロセスの整理から始めます。
一方で、マーケティングと営業の引き渡し基準が決まっていない場合は、MQL・SQLの定義や、どのリードを営業へ渡すのかを先に整理します。
どこから着手するかは、現在どこまで決まっているかによって変わります。
戦略設計の進め方は、BtoBマーケティング戦略の設計方法で解説しています。
「やっているのに成果が出ない」状態から抜け出すために
施策を続けていても商談が増えない、リードを獲得しても営業につながらない場合は、個別の施策だけでなく、KPIや営業への引き渡し、パイプラインの管理方法まで含めて見直す必要があります。Sells upでは、現在の数値や運用状況を整理し、どこから改善するかを決めるところから支援しています。
相談してみる →まとめ
営業パイプライン管理とは、見込み顧客や案件が営業プロセスのどのフェーズにいるかを可視化し、そのデータをもとに分析・改善を行う管理手法です。
本記事の要点を整理すると、次のとおりです。
| ポイント |
内容 |
|---|---|
| パイプライン管理の目的 |
売上予測、ボトルネックの把握、マーケティング施策の評価に活用する |
| 入口設計 |
どのリードを営業へ渡し、どの状態を案件として扱うかを決める |
| フェーズ設計 |
担当者によって判断が変わらないよう、移行条件を明確にする |
| 運用 |
入力したデータを営業会議や改善の判断に使う |
| MA・SFA連携 |
マーケティング側の情報と営業側の商談進捗をつなげて管理する |
パイプライン管理は、SFAやCRMを導入するだけで機能するものではありません。
特に重要なのは、「何をパイプラインに入れるのか」「どの状態を各フェーズとするのか」「入力したデータをどこで使うのか」を先に決めることです。
この3点が揃っていれば、案件数や転換率、滞留日数といった数字を、売上予測や営業プロセスの改善に使いやすくなります。
一方で、案件数がまだ少ない場合や、営業プロセスそのものが定まっていない場合は、細かなパイプライン管理を急ぐ必要はありません。まずは受注・失注の理由や案件の進み方を記録し、管理する対象と基準を整理するところから始めます。
パイプラインに入る前のリードをどう管理するかは、リード管理の仕組みづくりで解説しています。
よくある質問
パイプライン管理とは何ですか?
見込み顧客や案件が営業プロセスのどのフェーズにいるかを可視化し、分析と改善を続けるマネジメント手法です。初回接触から受注までの流れを1本の管に見立て、各フェーズに何件あり、どこで止まっているかを把握します。
パイプライン管理とファネル管理はどう違いますか?
ファネルは認知から購買までの流量を顧客視点で捉えるモデルで、マーケティング施策の設計と評価に向いています。パイプラインは個々の案件の状態を営業視点で管理するモデルで、次に何をすべきかという実行管理に向いています。対立する概念ではなく、ファネルが入口を、パイプラインが進捗を担う関係です。
フェーズはいくつに分けるのが適切ですか?
フェーズ数に一律の正解はありません。自社の営業プロセスを把握できる必要最小限の数から始め、運用しながら調整します。細かくしすぎると更新の負担が増え、反対に粗すぎると、どこで案件が止まっているのか分かりにくくなります。数そのものより、顧客の検討がどこまで進んだかを基準に区切ることが重要です。
ExcelとSFAはどちらを使うべきですか?
営業人数だけで決めるのではなく、案件数、更新頻度、複数人での共有が必要か、どこまで分析したいかで判断します。案件数が少なく、まず管理方法を試したい段階であればExcelやスプレッドシートでも管理できます。案件数や担当者が増えて更新漏れや集計の手間が出てきた場合や、マーケティングのデータと案件をつなげたい場合はSFAやCRMが向いています。ただしSFAは事前のフェーズ設計と定義の合意に時間がかかり、担当者が運用に慣れるまでにも数か月を要することがあるため、着手の順序を決めてから導入します。
スコアリングは必ず必要ですか?
必須ではありません。保有しているリードが少なく、一件ずつ内容を確認できる規模であれば、資料請求や問い合わせといった行動を条件にして営業へ渡す運用でも足ります。スコアリングは、営業が全件を確認しきれない規模になったときに、確認する対象を絞るための手段です。
パイプライン管理の数字が比較できないときは何から直しますか?
フェーズ移行条件の定義から見直します。同じ「提案フェーズ」でも、資料を送っただけの案件と決裁者にプレゼン済みの案件が混在していると、転換率を計算しても比較できません。「手応えがある」といった感覚ではなく、事実で確認できる条件に書き換え、全員が見える場所に掲示したうえで、四半期ごとなど定期的に定義を見直す場を設けます。
