マーケティング部門が営業へ渡したリードが、商談につながらないまま止まってしまう。
こうした状態が続いている企業では、どのリードを・いつ・どの情報を添えて渡すかが担当者の判断に任されていることが少なくありません。
本記事では、トスアップのビジネスでの意味から、引き渡すかどうかの判断条件、MQL(マーケティングクオリファイドリード)の基準、SLAの決め方、MA(マーケティングオートメーション)を使った通知の自動化までを、80社以上のBtoBマーケティング支援をもとに解説します。
トスアップとは?1分でわかる定義と営業プロセスにおける位置づけ
トスアップとは「見込み顧客を選別し、次の営業プロセスへ引き継ぐ行為」のことです。
定義を正確に押さえることで、自社のどの部門・どの場面で改善が必要かが見えてきます。
トスアップの語源と基本的な意味
トスアップの語源はバレーボールにあります。セッターがアタッカーに向けてトスを上げ、得点につながるプレーを生み出す動作が語源です。ビジネスの文脈では、見込み顧客の中から検討が進んでいる相手を選別し、次のプロセスを担う担当者へ引き継ぐことを指します。
重要なのは「引き継ぐだけでなく、選別する」という点です。全員をそのまま次のプロセスに渡してしまえば、担当者に過大な負担がかかり、本当に成約可能性の高い顧客への対応が手薄になります。選別したうえで引き継ぐことが、トスアップで重視される点です。
ビジネスにおけるトスアップの定義
ビジネスにおけるトスアップとは、マーケティング・インサイドセールス(IS)・コールセンターなどの各部門が、一定の基準を満たした見込み顧客をフィールドセールス(FS)へ引き継ぐプロセス全体を指します。
デマンドジェネレーション(需要創出活動の総称)の流れで整理すると、トスアップはリードジェネレーション→リードナーチャリング→リードクオリフィケーション→トスアップ→商談という順序で位置します。「リードを育てる」だけでなく「育ったリードを正しいタイミングで渡す」ことが、成約率を左右する重要なポイントです。
デマンドジェネレーション全体の構造については、デマンドジェネレーションの3つのプロセスで詳しく解説しています。
ティーアップとの違い
ティーアップはゴルフ用語が語源です。ティーペグを使ってボールを地面より高い位置に置く動作から、「相手を褒めて持ち上げる」という意味で使われます。商談の場で顧客との関係を温める際の手法です。
トスアップが「引き継ぎの仕組み」を指すのに対し、ティーアップは「コミュニケーション上の技術」を指します。両者は場面も目的も異なります。
| 項目 | トスアップ | ティーアップ |
|---|---|---|
| 語源 | バレーボール | ゴルフ |
| 対象 | 部門間の引き継ぎプロセス | 対顧客のコミュニケーション技術 |
| 目的 | 成約可能性の高いリードを次工程へ渡す | 相手との関係を温め、本題に入りやすくする |
| 主な場面 | マーケティング・IS・コールセンター→FS | 商談・ナーチャリングの対話 |
なぜトスアップの仕組み化が求められるのか
「仕組みのないトスアップ」は機会損失につながりやすくなります。
その理由は、どのリードを渡すかの判断が担当者ごとにバラバラになり、営業部門が受け取るリードの質が安定しないからです。
営業プロセスの分業化と引き継ぎの増加
BtoBの営業プロセスでは、担当を分ける体制をとる企業が増えています。従来は1人の営業担当者がターゲット選定・テレアポ・ナーチャリング・商談・クロージングまでを一手に担うのが一般的でした。しかし現在では、業務効率化と専門性向上を目的に、フェーズごとに担当チームを分ける企業が増えています。
具体的には、マーケティングチームがリード獲得・育成を担い、ISチームが見込み顧客との関係構築と選別を行い、FSチームが商談・クロージングに集中するという体制です。分業すると、部門と部門のあいだで引き継ぎが発生します。トスアップはこの引き継ぎの品質を決める工程です。
BtoBの営業プロセス全体を把握したい方は、BtoBマーケティングプロセスの8ステップも参考にしてください。
仕組みのないトスアップが引き起こす3つの機会損失
仕組みのないトスアップが引き起こす機会損失は、次の3つです。
①質の低いリードの大量流入:「名刺交換した」「資料をダウンロードした」という行動だけを根拠にトスアップすると、まだ検討段階にないリードがFSに大量に流れ込みます。FSの稼働が圧迫され、本来成約できたリードへの対応が遅延します。
②ホットリードの対応遅延:問い合わせや資料請求の直後など、相手が情報を求めているタイミングで接触できないと、他社に先に商談の機会を取られることがあります。「担当者が外出中だった」「情報共有に時間がかかった」という属人的な事情が、成約率に直結します。
③フィードバックが適切に回らない:トスアップ後に「このリードは成約したか」「どの基準で渡したリードが良かったか」というデータがマーケティングやISに戻らないと、トスアップ基準は改善されません。多くの企業で、渡した後の結果が見えないという課題があります。
トスアップを「属人的な判断」から「仕組み」に変える意義
トスアップを仕組み化するとは、「誰が担当しても同じ基準でリードを引き継げる状態」を作ることです。
具体的には、MQL基準の言語化・スコアリングによる客観的な判定・SLAによる部門間合意・MAを活用した自動連携の4つの要素を整備することを指します。
ただし、仕組みを「作ったかどうか」だけでは差がつきません。弊社が実施したBtoB企業480名の調査で、MAを導入している企業を「商談・売上に貢献できている企業(貢献群・42名)」と「十分に活用できていない企業(非貢献群・92名)」に分けて比べると、営業への通知やトスアップの運用があると回答した割合は、貢献群61.9%・非貢献群60.9%でほとんど差がありませんでした。
一方で、営業との連携がスムーズに取れていると回答した割合は、貢献群78.6%に対して非貢献群は6.5%でした。トスアップの仕組みがあるかどうかより、どのリードをどの基準で渡し、渡した後に営業がどう対応して結果を戻すかが部門間で共有されているかどうかで差が出ています。なお、この結果は相関を示すものであり、因果関係を示すものではありません。
出典:調査主体:株式会社Sells up/調査ツール:Surveroid(2026年9月、n=480)。詳細はBtoB企業のMA活用実態調査(第0回)で公開しています。
営業連携が機能している企業とそうでない企業の違いは、営業連携が機能している企業の共通点で詳しく解説しています。
部門別トスアップの役割と引き継ぎに必要な情報
部門ごとにトスアップで果たすべき役割は異なります。共通しているのは「情報の質」がトスアップの成否を決めるという点です。
マーケティング部門からフィールドセールスへのトスアップ
マーケティング部門の役割は、大量のリードの中から「検討が進んでいる様子が見える見込み顧客」を選別し、FSが商談に集中できる状態で引き継ぐことです。
マーケティング部門からのトスアップでよくある失敗は、FSが想定していたターゲット像とリードがかけ離れているケースです。
たとえば、マーケティングが「コスト削減に課題を持つ中堅製造業」をターゲットに設定していたにもかかわらず、FSが「業務効率化を求める大手SaaS企業」を想定してトークスクリプトを組んでいると、商談の場で顧客が求めているものと提案がすれ違います。
マーケティング部門がFSへ引き継ぐ際に添える情報は、次のとおりです。
- 流入経路(どの施策・チャネルからのリードか)
- 訴求したコンテンツと、顧客が示した関心ポイント
- スコアリングの結果と判定根拠
- 企業属性(業種・規模・部門・役職)
- 競合比較や予算確認の有無
インサイドセールスからのトスアップで成約率が左右される理由
インサイドセールスからのトスアップが成約率を左右しやすい理由は、ISが「顧客との実際の対話」を通じて、課題や検討の状況を本人に確認できる立場にあるからです。行動データからは関心の高まりを推定できても、予算や導入時期、誰が決めるのかは対話で聞かなければわかりません。
ISは見込み顧客と非対面で接触しながら、課題のヒアリング・情報提供・関係構築を同時に行います。この過程で蓄積されたインサイト(顧客の発言・懸念点・検討のタイムライン)は、FSが商談を進めるうえで欠かせない情報です。
ISがFSへ引き継ぐ際に伝える情報は、次のとおりです。
- これまでの対話の経緯(何回接触し、何を話したか)
- 顧客が強く反応したポイントと、懸念を示したポイント
- 検討タイムライン(いつまでに決定したいか)
- 決裁者・影響者の構造(誰が決めるか)
- 競合検討の状況
ISの役割とナーチャリング手法の詳細は、ISによるナーチャリング実践で解説しています。
予算・決裁権・必要性・導入時期をどの順番で聞くかは、BANT条件のヒアリングの順番を参考にしてください。
これからインサイドセールスの体制をつくる場合は、インサイドセールスの立ち上げ手順で役割分担とSLAの決め方を整理しています。
コールセンターからフィールドセールスへのトスアップ
コールセンターからのトスアップで注意すべきは、「話を聞いてくれた」という事実と「検討が進んでいる」という判断を混同しないことです。
電話対応の中で、検討が進んでいる可能性を示すシグナルの例は次の3つです。
- 代金・契約条件に関する質問が相手から出た
- 詳細資料や見積もりを求めてきた
- 納期や導入スケジュールについて質問があった
これらのシグナルがない場合は、まずMAやISによるナーチャリングを継続する判断が適切です。
また、コールセンターからFSへ担当者が代わる場合は、顧客に事前に「詳しい担当者から改めてご連絡いたします」と伝えておきます。連絡なしに担当者が変わると、顧客はそれまでの経緯をもう一度説明することになり、関係が途切れやすくなります。
各部門共通で引き継ぐ5つの情報項目
部門を問わず、トスアップ時に引き継ぐ情報項目は次の5つです。
- 企業属性と担当者情報:業種・企業規模・担当者の役職・決裁権の有無
- 接触履歴と反応の記録:いつ・どの施策で・どのような反応だったか
- 課題・ニーズの概要:顧客が自発的に述べた課題と、ヒアリングで確認した潜在ニーズ
- トスアップ判定の根拠:スコアリングの点数、または判定に使った行動トリガー
- 次のアクションの推奨:FSが最初に取るべき行動(アポイントの設定か、追加情報の提供か)
トスアップのタイミングを決める「MQL基準」の設計
トスアップのタイミングを決める方法は「MQL基準を言語化し、スコアリングと行動トリガーで客観化すること」です。
MQLとSQLの違いとトスアップ基準の言語化
MQL(Marketing Qualified Lead:マーケティングが選別した見込み顧客)とは、一定の基準を満たし「営業が接触すべき」と判断されたリードのことです。SQLとはSales Qualified Lead(営業が商談に値すると判断したリード)のことを指します。
MQLとSQLの違いは、判定する主体と基準にあります。
- MQLは「マーケティング部門・ISが、このリードは営業に渡せる」と判断した状態です。
- SQLは「営業が、このリードは商談を進められる」と判断した状態です。
トスアップとは、マーケティング部門・ISがMQLと判定したリードをFSへ引き継ぐことと言い換えられます。
MQLとSQLの定義設計と連携方法の詳細は、MQLとSQLの違いと基準の決め方で解説しています。
スコアリングでトスアップのタイミングを客観化する
スコアリングとは、リードの属性情報と行動情報に点数を付け、営業が確認する順番を決めるための目安にする手法のことです。点数は関心の高まりを推定する材料であり、購買意欲そのものを測るものではありません。
スコアリングを活用したトスアップ基準は、「属性スコア」と「行動スコア」を分けて考えると整理しやすくなります。
- 属性スコアは「自社のターゲット像にどれだけ近いか」を点数化します。
- 行動スコアは「どれだけ購買に近い行動を取っているか」を点数化します。
属性と行動のそれぞれに条件を置き、両方を満たした時点でMQLと判定してISまたはFSへトスアップする方法があります。合計点だけで判定すると、属性が合わないのに行動だけが多いリードまで渡ってしまうためです。
スコアリングルールの具体的な設計手順は、スコアリングルール設計の全手順を参照してください。
行動トリガーと属性スコアを組み合わせた判定基準の例
行動トリガーと属性スコアを組み合わせた判定基準の例は次のとおりです。配点は自社の受注データをもとに決めるもので、下の点数は一般的な基準ではありません。
属性スコアの例(業種・規模・役職に点数を付ける)
| 属性 | 条件 | スコア |
|---|---|---|
| 業種 | ターゲット業種に合致 | +20点 |
| 企業規模 | 従業員数100名以上 | +15点 |
| 役職 | 部長・本部長以上 | +20点 |
| 所在地 | 主要商圏内 | +10点 |
行動スコアの例(検討の進み具合を点数化する)
| 行動 | スコア |
|---|---|
| 価格ページの閲覧 | +30点 |
| 事例資料のダウンロード | +25点 |
| ウェビナーへの参加 | +20点 |
| メールのクリック | +10点 |
| サービス詳細ページの閲覧 | +15点 |
Sells upが支援で使っている設計例では、属性スコア20点以上かつ行動スコア40点以上をMQLの条件としています。行動の配点は、受注データからロジスティック回帰で求めた重み(直近性0.385・頻度0.165・関与度0.45)をもとに決めており、直近7日以内に質の高い行動があり総合スコアが0.75以上のリードを優先して連絡する対象にしています。これはSells upでの設計例であり、一般的な基準ではありません。また、スコアが高いことと購買意欲が高いことは同じではないため、条件を満たしたリードもISが状況を確認してから商談へ進めます。
こうした条件を、マーケティング部門・IS・FSの3部門で合意します。
点数とは別に「問い合わせやデモの申し込みがあった場合は点数にかかわらずISが当日中に連絡する」「料金ページを閲覧した場合はISが状況を確認する」といった行動トリガーも設定しておくと、対応の遅れを防げます。
引き渡すか迷うリードの判断
基準を決めても、実際の運用では「渡すべきか迷う」リードが出てきます。よくあるケースと判断の例は次のとおりです。
- 問い合わせ・デモの申し込みがあった:本人が接触を求めているため、スコアにかかわらず当日中にISまたはFSが連絡します
- 属性は合うが行動が少ない:まだ検討の初期段階であることが多いため、ナーチャリングを続け、行動の変化を待ちます
- 行動は多いが属性がターゲットから外れる:情報収集目的や競合調査の可能性があるため、ISが一度状況を聞いてから判断します
- 料金ページや事例ページを何度も見ている:比較検討に入っている可能性はありますが、閲覧だけで判断せず、ISが課題と導入時期を確認してから渡します
- 以前に失注したリードが再び動き出した:前回の失注理由を引き継ぎ情報に添えて渡し、同じ提案を繰り返さないようにします
迷うケースをすべて事前に決めることはできません。判断に迷ったリードとその結果を記録しておき、月次のレビューで基準に反映していくほうが運用しやすくなります。
リードを選別する方法の全体は、リードクオリフィケーションの4つの方法で整理しています。
トスアップを仕組み化するSLAの設計
SLAなしのトスアップは「渡すだけ」で終わります。SLAとは、マーケティング部門・ISとFSの間で「どのようなリードを・いつ・どのように渡し・FSはどう動くか」を文書で合意する取り決めのことです。
SLAの意味とマーケティング・営業で合意するトスアップのルール
SLAはService Level Agreementの略です。元々はITサービスの品質保証で使われていた概念ですが、BtoBマーケティングでは「マーケティングチームと営業チームの間で交わす、リード引き継ぎに関する取り決め」として広く活用されています。
SLAがなければ、トスアップの基準・対応タイムライン・フィードバックの方法がすべて不明確なままになります。
その結果、FSからは「質の低いリードばかり来る」という声が、マーケティング部門からは「渡してもフォローしてもらえない」という声が上がり、両部門の連携が進まなくなります。
SLAに盛り込む6つの項目
SLAに盛り込む項目は、次の6つです。
①MQLの定義:どのスコア・行動トリガーでMQLと判定するかを数値で書き表します。たとえば「属性スコア20点以上かつ行動スコア40点以上で、ISとの会話で検討の意向が確認できた場合」のように、誰が見ても同じ判断になる形で書きます。
②トスアップ後のFSの対応タイムライン:MQL判定から何時間以内にISまたはFSが接触するかを明記します。例としては「営業時間内のMQL発生:2時間以内に初回接触」「営業時間外:翌営業日午前中に接触」といった形があり、期限は自社の体制で守れる範囲で決めます。対応の速さについては、MITとInsideSalesが約15,000件のWebフォームリードを対象に行ったLead Response Managementの研究で、5分以内に接触した場合は30分後と比べて商談候補として資格付けできる確率が約21倍と報告されています。ただし、すべてのリードに即時対応する必要はなく、問い合わせやデモの申し込みなど本人が接触を求めている行動を優先し、料金ページの閲覧だけといった行動とは対応の速さを分けて決めます。
③引き継ぎ情報のフォーマット:CRM(顧客管理システム)またはSFA(営業支援システム)に記録すべき項目を統一します。何をどこに書くかが明確でないと、引き継ぎの品質が担当者によって大きく変わります。
④フィードバックのルールと頻度:FSは引き継いだMQLについて、「商談化した・失注した・まだナーチャリングが必要」という結果を、いつまでにどの形式で共有するかを定めます。月次での定期レビューを設ける企業が多いです。
⑤ホットリードの定義:MQLのうち、即時対応が必要なリードの定義を分けて記載します。
ホットリードの定義設計については、ホットリードの定義と設計も参照してください。
⑥SLAの見直し頻度:市場環境や商材の変化に合わせ、四半期ごとにSLAの内容を見直す旨を明記します。一度作ったSLAを更新しないと、実際の運用とずれていき、守られなくなります。
SLA締結を円滑に進める社内調整の進め方
SLA締結で難しいのは、マーケティング部門・IS・FSの全員が納得する合意をつくるところです。
部門間で利害が対立することも多く、特に「MQLの閾値をどう設定するか」「対応タイムラインをどこまで厳格にするか」は交渉が必要な場面です。
合意を進めやすいのは、直近数か月の商談データを持ち寄り、「どのリードが商談・受注につながったか」「どのリードが対応しても進まなかったか」を全員で確認してから議論を始める進め方です。印象ではなく、同じデータを見ながら基準を決めることがポイントです。
最初から完成度の高いSLAを目指す必要はありません。MQLの定義・対応期限・結果の戻し方の3点だけを決めて運用を始め、四半期ごとに見直すほうが、合意までの時間を短くできます。
リードの獲得から引き渡しまでの管理全体は、リード管理の仕組みづくりで解説しています。
トスアップの失敗パターンと対処法
トスアップの失敗は、個人の判断ではなく仕組みの側に原因があることが多くあります。原因を特定しないまま個人の努力で改善しようとしても、同じことが繰り返されます。
失敗パターン① MQL基準が言語化されておらず、低品質リードが大量流入する
「なんとなく確度が高そう」という担当者の感覚に依存したトスアップが行われていることが要因です。感覚基準は担当者ごとにバラバラで、引き継ぎのタイミングや質が一定になりません。
対処法は、MQL基準をスコアリングで数値化し、全担当者が同じ基準で判定できる状態を作ることです。まず「過去に成約したリードにはどんな属性・行動パターンがあったか」をデータで確認し、そこからスコアリングの設計を逆算します。
失敗パターン② 引き継ぎ情報が不足し、営業が1から関係構築し直す
引き継ぎの情報フォーマットが標準化されていないため、ISが「とりあえず連絡先と会社名だけ渡す」という状況が発生していることに起因します。FSは「この顧客が何に困っているのか」「何に興味を持ったのか」を知らないまま初回接触し、顧客側からは「また最初から説明しなければならない」という不満が生まれます。
対処法は、引き継ぎ情報のフォーマットをSLAで標準化し、CRMに必須入力項目として設定することです。
失敗パターン③ トスアップ後のフィードバックループがなく、基準が改善されない
FSからマーケティング部門・ISへのフィードバックが仕組み化されていないため、「渡したリードがどうなったか」がマーケティング部門・ISには伝わらないことが要因です。その結果、トスアップ基準は初期設定のまま放置され、市場環境や商材の変化に追随できなくなります。
対処法は、SLAにフィードバックのルールを明記し、月次の定例レビューでデータを持ち寄る場を設けることです。
失敗パターン④ 訴求軸の不統一により、顧客が商談で「話が違う」と感じる
マーケティング部門が「コスト削減効果」を訴求した広告でリードを獲得しているのに、FSが「業務効率化」を中心に商談を進めるという訴求軸のズレが発生することが要因です。顧客は「思っていた内容と違う」と感じ、商談が成立しないケースが多くなります。
対処法は、ペルソナとカスタマージャーニーマップを全部門で共同設計し、どのフェーズでどのメッセージを届けるかを統一することです。
失敗パターン⑤ ホットリードの対応が遅れ、相手の関心が他へ移る
MAやSFAのアラートが設定されておらず、担当者がMQL発生に気づくのが数時間後・翌日になってしまうことが要因です。問い合わせから時間がたつほど、相手の関心はほかの業務や他社の提案に移っていきます。他社が先に接触していれば、対応の遅れがそのまま失注につながることもあります。
対処法は、MAとSFAを連携させてスコア閾値到達時に担当者へ即時通知を送る仕組みを構築することです。
MAとSFAを活用したトスアップの自動化
MAとSFAの連携でトスアップを自動化することで、「スコア閾値到達→即時通知→迅速な初回接触」という一連の流れを人手を介さずに実現できます。
MA(マーケティングオートメーション)とインサイドセールスの連携フローの詳細は、MAとIS連携の具体策で解説しています。
MAとSFAの連携でトスアップを自動化する仕組み
MAとSFA(営業支援システム)を連携させたトスアップ自動化の基本的な仕組みは以下のとおりです。
Step.1:MAでスコアリングを設定する:リードの属性情報と行動データに基づき、MAツール上でスコアを自動集計します。ウェブサイトの特定ページの閲覧・メールのクリック・フォームの送信などの行動を、あらかじめ設定したスコアと自動的に紐づけます。
Step.2:閾値に達したリードをSFAへ自動連携する:MAで設定したMQL基準(例:属性スコアと行動スコアがそれぞれの条件を満たした場合)に達したリードを、SFAに自動的に取り込みます。このタイミングで、担当するISまたはFS担当者にメールやSlackなどで通知されます。
Step.3:SFA上で対応状況を管理する:SFAにMQLが登録された後の対応状況(初回接触済み・商談設定済み・失注・受注)をFSが記録します。この記録がMAにフィードバックされ、スコアリングの精度向上に活用されます。
MAツールで設定すべきトスアップトリガーの例
MAツールで設定すべきトスアップトリガーは、「スコア閾値トリガー」と「行動トリガー」の2種類があります。
スコア閾値トリガー:合計スコアが一定の点数に達した時点でMQL判定し、SFAへ自動連携します。少しずつ積み重なる関心の変化を捉えるのに向いています。
行動トリガー:特定の行動(価格ページの閲覧・料金シミュレーターの利用・無料トライアルの申し込みなど)を起点に、スコアにかかわらず即時にIS担当者へ通知します。検討が進んだ可能性のある行動を見逃さず、ISが状況を確認するきっかけにするのに向いています。
株式会社CLUE様の支援では、3日連続でサービスページに訪問しているユーザーをMAで検知し、インサイドセールスへ自動で連携する仕組みを整えました。行動の条件をあらかじめ決めておくことで、担当者がログを見に行かなくても、確認すべきリードにISが連絡できる状態になります。

行動の変化から関心の高まりを読み取る考え方は、インテントデータの読み取り方で解説しています。
自動化後も必要な「人が介在するポイント」
MAとSFAによる自動化を進めても、人が判断すべき場面は残ります。3つのポイントに注意が必要です。
①スコアリングのチューニング:MAが自動算出するスコアは、実際の成約データと突き合わせて定期的に見直す必要があります。「高スコアのリードが成約していない」場合は、配点の考え方を見直す必要があります。スコアが高いことと購買意欲が高いことは同じではないため、点数は確認の順番を決める材料として扱います。
②難易度の高いリードへの個別対応:スコアが高くても、複雑な組織購買プロセスや特殊な懸念点がある場合は、ISが直接ヒアリングしてから渡すほうが成約率が高くなります。自動化で見落とされやすい複雑な状況への対応は、人の判断に委ねます。
③フィードバックの定期的な実施:MAとSFAの連携が機能していても、月次レビューでマーケティング部門・IS・FSが集まりデータを確認する場は必要です。ツールが出すデータを、人が解釈して次の設計改善につなげることが重要です。
トスアップを成功させる組織設計の4ステップ
トスアップを仕組み化するときは、一度にすべてを整えようとせず、次の4つのステップで段階的に進めます。
Step.1:全部門でペルソナとカスタマージャーニーを共同設計する
最初に取り組むのは、マーケティング部門・IS・FSの全員が同じ「ターゲット像」を共有することです。部門ごとにターゲットの認識が異なると、その後のトスアップ基準やSLAが機能しません。
共同設計の進め方として、まず「過去1〜2年の受注データから理想顧客の共通属性を抽出する」ことをお勧めします。「どんな業種・規模・役職の顧客が受注しているか」「受注顧客が最初にどこから流入してきたか」というデータを全員で確認し、ペルソナとカスタマージャーニーに落とし込みます。
Step.2:MQL/SQL基準を言語化し、トスアップのトリガーを設定する
ペルソナが合意できたら、次にMQL基準を設計します。このステップでつまずきやすいのは、「正解のスコア配分がわからない」という点です。
最初から完璧な設計を目指す必要はありません。まず「受注した顧客の過去の行動履歴」をMAのデータで確認し、「どの行動を取ったリードが最終的に受注したか」を分析します。そのパターンを基準値として設定し、運用しながら精度を上げていきます。
Step.3:SLAで部門間の合意を文書化する
MQL基準が決まったら、SLAを作成します。SLAはシンプルでかまいません。最初は「MQLの定義・対応タイムライン・フィードバックの頻度と方法」の3項目だけで十分です。形式よりも、全員が合意している内容が文書化されていることが重要です。
SLAを作成した後は、四半期ごとに見直す場を設けます。最初に設定したMQL基準が実際の商談の結果と合わない場合は、データをもとに調整します。
Step.4:MAを活用してトスアップを自動化し、PDCAを回す
SLAが機能し始めたら、MAとSFAの連携でトスアップを自動化します。自動化によって通知から初回接触までの時間を短くでき、対応の遅れによる取りこぼしを減らせます。
自動化後のPDCAの基本サイクルは、「月次定例でMQL数・商談化率・成約率を確認→スコアリングの精度を検証→SLAとスコア基準を調整→翌月の運用に反映」です。Sells upでは、スタートアップからプライム上場企業まで80社以上のBtoBマーケティングを支援してきた中で、このサイクルを各社の体制に合わせて運用に乗せる支援を行っています。
トスアップの仕組みづくりを急がなくてよい場合
ここまで仕組み化の進め方を解説してきましたが、すべての企業がすぐにMQL基準やSLA、MAによる自動化まで整える必要があるわけではありません。分業の体制は、各工程に十分な人員とリードの流入量がそろって初めて機能します。
次のような段階では、仕組みづくりを急ぐより先に取り組むことがあります。
- リードの件数が少なく、営業が全件を確認できている:スコアの条件を決めても母数が小さく、条件の良し悪しを判断できません
- マーケティングと営業を同じ担当者が兼ねている:引き継ぎ自体が発生しないため、SLAを文書にする意味が薄くなります
- 商談や受注のデータがまだ少ない:どの属性・行動が商談につながるかの根拠がなく、基準を決めても推測になります
こうした段階では、引き継ぐときに渡す情報の項目と、商談の結果をどう戻すかの2点だけを先に決めておきます。記録が積み上がり、担当が分かれた時点で、MQL基準とSLAを整える流れのほうが無理なく進められます。
「やっているのに成果が出ない」状態から抜け出すために
施策を続けているのに商談が増えない、リードの質が上がらない。こうした課題の多くは、戦略と施策のつながりが設計されていないことが原因です。Sells upは現状の分析と改善の優先順位整理から支援します。
相談してみる →まとめ
トスアップは、見込み顧客を次の担当へ渡すだけの作業ではなく、商談につながるリードを選んで、必要な情報とともに引き継ぐ工程です。
仕組みにするために整えるのは、MQL基準の言語化、SLAの締結、MAとSFAの連携、月次の振り返りの4つです。感覚で判断していた基準を属性と行動の条件で書き表し、対応の期限と結果の戻し方を部門間で文書にし、条件を満たしたリードを担当者へ通知する流れをつくり、商談と受注の結果をもとに基準を見直していきます。
弊社の調査では、トスアップの運用があるかどうかでは成果の出ている企業とそうでない企業に差がなく、営業との連携がスムーズに取れているかどうかで大きな差が見られました。仕組みをつくること以上に、渡した後の対応と結果を部門間で共有できているかが分かれ目になります。
トスアップが担当者の判断に任されている状態は、個人の能力ではなく仕組みの問題です。まずはStep.1のターゲット像の共有から着手し、データを積み重ねながら段階的に整えていくことをお勧めします。
Sells upでは、BtoBマーケティング支援・MA活用支援・インサイドセールス立ち上げ支援を通じ、トスアップの仕組み化を含むマーケティングと営業の連携を、設計から運用まで支援しています。
よくある質問
ビジネスにおけるトスアップとは何ですか?
ビジネスにおけるトスアップとは、マーケティング・インサイドセールス・コールセンターなどの部門が、一定の基準を満たした見込み顧客をフィールドセールスへ引き継ぐプロセスのことです。語源はバレーボールで、セッターがアタッカーへトスを上げる動作に由来します。単なる情報の受け渡しではなく、検討が進んでいる顧客を選別したうえで引き継ぐという「選別と引き継ぎの両方」がトスアップで重視される点です。MQL(マーケティングクオリファイドリード)基準やスコアリングを活用して客観的に判定することで、営業部門が商談に集中できる環境が整います。
ビジネス用語で「トスする」とはどういう意味ですか?
ビジネス用語で「トスする」とは、自分が担当していた顧客・案件・情報を次の担当者やプロセスへ引き継ぐことを指します。バレーボールのセッターがアタッカーへボールを渡す動作が語源です。営業の文脈では「このリードをトスする」「ISからFSへトスする」という形で使われます。単に連絡先を渡すのではなく、顧客の課題・接触履歴・検討状況といった情報をセットで引き継ぐことが、成約率を高めるうえで重要です。
コールセンターでのトスアップとはどういうことですか?
コールセンターでのトスアップとは、テレアポや問い合わせ対応を担うコールセンターが、検討が進んでいる見込み顧客をフィールドセールスへ引き継ぐことです。コールセンターのトスアップで重要なのは、「話を聞いてくれた」という事実と「検討が進んでいる」という判断を混同しないことです。代金・契約条件への質問、詳細資料や見積もりの要求、納期・導入スケジュールへの関心といった具体的なシグナルを確認してからトスアップする判断が適切です。また、担当者が変わる際は顧客に事前に伝え、経緯を説明し直す手間をかけさせないことがポイントです。
トスアップがうまくいかない場合、最初に見直すべきポイントはどこですか?
トスアップがうまくいかない場合、最初に見直すべきポイントはMQL基準が言語化されているかどうかです。「なんとなく確度が高そう」という感覚に依存したトスアップでは、担当者によって引き継ぐリードの質がバラバラになります。次に確認すべきは、引き継ぎ情報のフォーマットが統一されているかどうかです。接触履歴・顧客の課題・検討タイムラインが共有されていない場合、営業担当者は1から関係構築し直すことになります。さらに、フィードバックループが機能しているかを確認してください。渡したリードがどうなったかをマーケティング部門やISに戻す仕組みがないと、トスアップ基準は改善されないままになります。
インサイドセールスがいない場合、トスアップはどう進めればよいですか?
インサイドセールスがいない場合は、マーケティング部門から営業へ直接トスアップします。このとき、営業が対応しきれない量のリードを渡さないよう、問い合わせやデモの申し込みのように本人が接触を求めているリードだけを先に渡し、それ以外はメールなどでナーチャリングを続ける形が運用しやすくなります。引き継ぐ情報の項目と、営業が結果を戻す方法だけは最初に決めておきます。
トスアップの基準やSLAはどのくらいの頻度で見直せばよいですか?
四半期ごとに見直すのが一つの目安です。月次のレビューで、MQLのうち商談に進んだ割合や、営業が対応しなかったリードの理由を確認し、条件が実際の商談の結果と合っているかを見ます。商材や体制が大きく変わったときは、四半期を待たずに見直します。
