社内に知見がない中でBtoBマーケティングを立ち上げるときは、広告やツールを決める前に「何を、どの企業に、どう売るか」を言葉にし、そのあとリードの獲得、管理、連絡、育成の順に1つずつ足していきます。最初の数か月は、施策を始める前の整理に時間がかかるものとして計画を立てます。
法人向けの商品・サービスを提供する企業でマーケティング・営業に関わる432名への調査(ファストマーケティング株式会社、2026年5月)では、マーケティングを営業・広報・企画などが兼任していると答えた人が36.6%でした。専任部署を新しく作っても、メンバーの全員が未経験というのは珍しくありません。
本記事では、スタートアップからプライム上場企業まで100社以上のBtoBマーケティングを支援してきたSells upが、マーケティングや営業の部署がなかった会社で新しい部署を立ち上げた株式会社日本テレビアート様の取り組みをもとに、知見がない場合に最初につまずく所、立ち上げの順番、社内に知見を残す進め方、部署を新設しなくてよい場合を解説します。
立ち上げた後に出てくる課題を7つに分けた整理は、BtoBマーケティングの課題と解決の順番で解説しています。本記事では、まだ何も始まっていない段階からの進め方に絞ります。
知見がない場合に、立ち上げで最初につまずく所
知見がない場合、最初につまずくのは、施策の選び方ではなく、その前の「何をどう売るかが言葉になっていない」ことです。ここを決めないまま広告や営業代行を始めると、外部の人にも自分たちにも説明できず、施策が成果につながりません。
売るものと売り方が言葉になっていない
日本テレビアート様は、日本テレビの番組制作を主に受けてきた会社で、営業やマーケティングにあたる部署がありませんでした。社員約200名のうち8割以上がデザイナーです(2024年9月時点)。業界環境の変化に合わせた事業の多角化のために新しい部署が立ち上がりましたが、メンバーは営業やマーケティングの経験がない状態から始まりました。
最初にぶつかったのは、自社の提供価値を言葉にすることの難しさでした。デザインは、できあがった製品を納品するのではなく、要望を受けて一点物を作る仕事です。担当者は当時を「無形商材を扱ってるっていうのがそもそも難しい」と振り返っています。当初は営業代行を契約しましたが、自社の得意なことを外部の担当者に理解してもらえず、自分たちもうまく言葉にできていなかったため、商談には進みませんでした。
営業のイメージが飛び込みしかない
営業の経験がないと、新規の顧客をつくる方法として思い浮かぶのが飛び込み営業になりがちです。日本テレビアート様の担当者も、当時は営業といえば「知らない人のところに突然こんにちは」と訪ねるイメージしかなかったと仰っていました。部署ができたのはコロナ禍の頃で、知らない会社を訪ねる営業はしにくい時期でした。
BtoBマーケティングでは、相手から資料請求や問い合わせなどの最初の行動を起こしてもらい、関心を持った相手から順に連絡します。飛び込み以外の入口を作ることが、知見がない場合の、最初の目標になります。
外部に任せても社内に知見が残らない
知見がないからといって施策を外部に任せきりにすると、契約が終わったときに何も残りません。日本テレビアート様は、支援を受けるだけでなく、「組織の中に蓄積、ノウハウを蓄積していきたい」という考えで支援会社を探しました。
弊社がBtoB企業480名を対象に行った調査でも、MAを導入している134名への複数回答で、つまずきとして多かった回答の1位は「社内にノウハウがない」(39.6%)でした。ツールを入れても、使い方や判断の基準が社内に残らないと運用が止まります。
出典:弊社「MA活用実態調査(第0回)」。調査主体:株式会社Sells up/調査ツール:Surveroid(2026年9月、n=480、導入者 n=134)。詳細は調査レポートをご覧ください。
立ち上げの順番|最初の1年で進める5つの段階
知見がない中でのBtoBマーケティングは、次の5つの段階で立ち上げます。一度にすべてを始めず、前の段階が回り始めてから、次の取り組みを足していきます。
| 段階 | やること | 日本テレビアート様で行ったこと |
|---|---|---|
| Step.1 | 売るもの・狙う企業・提供価値を言葉にする | 約10か月かけて、どのサービスをどう売るかを決めた |
| Step.2 | リードを集める入口を1つ作る | Meta広告とコンテンツマーケティングから始め、サービス資料とLPを用意した |
| Step.3 | 獲得したリードを1か所で管理する | スプレッドシートの管理から顧客管理ツールへ移した |
| Step.4 | 関心を持った相手に連絡する体制を作る | インサイドセールスのチームを立ち上げ、トークスクリプトを用意した |
| Step.5 | メールで関係を続け、受注率の改善に移る | メールマーケティングを始め、リードの育て方と受注率に目を向けた |
兼任や少人数の体制では、最初から施策を並べず、リードを集める入口、管理する表、連絡する相手の条件をそれぞれ1つに絞ります。週に一度、獲得数、連絡済みの数、商談になった数を見て、次の週に変える箇所を1つ決めます。
Step.1:売るもの・狙う企業・提供価値を言葉にする
最初の段階では、どのサービスを、どの企業に、どんな価値として届けるかを決めます。知見がない場合は、ここに想定より長い時間がかかります。
日本テレビアート様の支援は、当初から約2年を想定し、半年で施策を考えて残りの1年半で実行する計画でした。実際には施策を決めるまでに約10か月かかりました(2024年9月の取材時点の振り返り)。その間は、社内に案を出しても通らない期間が続きました。
当初は新しいサービスを作ることも含めて検討していましたが、会社がやりたいことと市場が求めることの差が埋まらず、既存のサービスをインサイドセールスで売っていく形に落ち着きました。最初の段階で無理に新しい売り物を作らず、今あるサービスの価値を言葉にし直すことも選択肢になります。
狙う企業の条件を決める具体的な手順は、狙う企業像を決める手順で解説しています。
Step.2:リードを集める入口を1つ作る
売るものを決めたら、リードを集める入口を1つ作ります。最初から複数のチャネルを同時に始めると、どれが効いたのかを判断しにくくなります。
日本テレビアート様は、サービスの内容が形になり始めた時点でリード獲得に移りました。最初にMeta広告から始め、同時にサービス資料とLPの作成、コーポレートサイトの改修とコンテンツマーケティングの立ち上げを進めています。広告では、日本テレビの番組のデザインだけを手がける会社という印象を変える内容を打ち出し、課題の解決について相談が増えていきました。担当者は「そういうご相談がすごく増えてきた」と話しています。
毎月の広告予算は10万円程度で、初年度から多い月で100件以上のリードを獲得できるようになりました(事例記事の公開時点)。広告とコンテンツ記事は、質の高いリードが取れるように内容を調整しています。
最初の入口にどの施策を選ぶかは、リード獲得の施策の選び方で比べています。

Step.3:獲得したリードを1か所で管理する
リードが入り始めたら、どこから来た誰に、いつ、何を連絡したかを1か所で管理します。日本テレビアート様は、スプレッドシートで管理していたリードの情報を顧客管理ツール(HubSpot)に集め、状況の管理とメール配信につなげました。
スプレッドシートから顧客管理ツールへ移す時期は、リードの件数よりも管理する項目の数で判断します。件数が少なくても、案件名、アポイントの日時、流入経路、商談の内容などを細かく残すようになると、行が増えて後から分析しにくくなるためです。
どのデータをどのツールで持つかは、CRM・SFA・MAで顧客を管理する仕組みで解説しています。
Step.4:関心を持った相手に連絡する体制を作る
リードを管理できるようになったら、関心を持った相手に連絡する体制を作ります。リードは、資料請求など何らかの最初の行動を起こした相手です。少しでも関心のある相手に連絡するため、飛び込みとは違い、営業の経験が浅いメンバーでも話を始めやすくなります。
日本テレビアート様では、インサイドセールスのチームを新たに立ち上げ、トークスクリプトを作って運用を始めました。担当者は、少しでも興味のある相手に営業する形になったことで、デザインの経験しかないメンバーでも営業に入れるようになったと話しています。
インサイドセールスの体制、KPI、つまずきやすい点は、インサイドセールスの立ち上げ手順で解説しています。
Step.5:メールで関係を続け、受注率の改善に移る
連絡しても今すぐ検討しない相手とは、メールで関係を続けます。日本テレビアート様は、広告とコンテンツ、顧客管理ツールの導入のあとに、最後の段階としてメールマーケティングを始めました。
インサイドセールスが形になったあとは、リードの獲得数よりも、リードの育て方と受注率の向上に目が向くようになりました。獲得の仕組みが回り始めてから育成と受注率に移る順番にすると、少ない人数でも1つずつ手を付けられます。
立ち上げの費用は、広告費、資料やLPの制作費、顧客管理ツールやMAの利用料、外部の支援費、社内のメンバーの稼働に分けて見積もります。効果は初月から受注だけで見ず、売るものの言語化、リードの獲得、連絡済みのリード、商談の順に見ます。受注までの期間が長い商材では、途中の数字が増えているかを追うほうが、早い段階で施策を直せます。
知見を社内に残す進め方
知見を社内に残すには、外部の支援を受ける場合でも、判断と操作を社内のメンバーが自分で行う機会を作ります。支援会社に作業を任せるだけでは、契約が終わったあとに同じことを社内で再現できません。
学ぶ場を定例にし、実際に操作する
日本テレビアート様では、マーケティングの考え方とHubSpotの操作方法を学ぶ勉強会を毎週開き、組織の中に知見を残しました。勉強会では説明を聞くだけで終わらせず、ミーティング中に担当者が実際に画面を操作し、次の週までに終える設定を宿題として決めて、初期設定を進めながら学びました。
コンテンツマーケティングの記事の書き方や、広告のビジュアルについても、支援会社に任せきりにせず、助言を受けながら社内で手を動かしました。何を決めたのか、なぜそう決めたのかを社内のメンバーが説明できる状態を目指します。
判断の材料とデータは社内に置く
外部の支援を受けても、どの企業を狙うか、何を成果とするか、施策を続けるか止めるかの判断は社内で行います。広告やツールのアカウント、顧客のデータも自社の名義で持ち、支援会社には必要な権限だけを渡します。契約が終わったあとも、履歴と設定を引き継げるようにするためです。
株式会社CLUE様も、社内にマーケティングの経験者がいない状態から、KPIの設計に着手して指標を絞り、インサイドセールスのチームの立ち上げまで進めました。最初に何を成果とするかを決めておくと、施策の優先順位を社内で判断しやすくなります。

MAの運用に絞った知見の残し方は、MA運用の知見を社内に残す進め方で解説しています。
外部の支援会社を選ぶときに見ること
知見がない中で支援会社を選ぶときは、施策ごとの専門性よりも、全体の方向性を一緒に考え、社内に知見を残す進め方ができるかを見ます。
日本テレビアート様は、営業の前段階の課題に向き合うことと、マーケティングからインサイドセールス、営業までの組織の立ち上げを支援できることを必須の条件として複数の会社に声をかけ、最終的に3社から提案を受けました。提案のなかに、将来は自分たちで運営できるよう組織に知見を残す工夫が含まれていたことも、選んだ理由に挙げています。担当者は、知見がない側に教えるのは難しく、担当者との相性が大きいと考え、何度か話してから判断しました。
株式会社ブリューアス様も、施策ごとの専門性より、全体としてどの方向に進めばよいかを一緒に相談できる相手が必要だと考えて支援会社を選びました。
支援会社の種類や費用の目安、選ぶときに見る点は、BtoBマーケティング支援会社の選び方で解説しています。
マーケティングの部署を新設しなくてよい場合
すべての会社がマーケティングの部署を新設する必要はありません。次のような場合は、部署を作る前に、営業活動の中でできることから始めるほうが合います。
- 狙う企業の数が限られていて、営業が見込みのある企業を把握できている
- 受注の大半が既存顧客や紹介から生まれていて、新しいリードを多く集める必要がない
- 単価が高く、年に数件の受注で目標に届く
この場合も、狙う企業の一覧、過去の提案資料や事例、紹介を受けた経路などを記録しておくと、あとで部署を作るときの材料になります。紹介だけでは目標に届かなくなった、営業が新規の開拓に追われて既存顧客の対応が手薄になった、といった変化が出てきたら、専任の担当者を置くことを検討します。
獲得から受注までの流れは、BtoBマーケティングの全体の流れで解説しています。
「やっているのに成果が出ない」状態から抜け出すために
施策を続けているのに商談が増えない、リードの質が上がらない。こうした課題の多くは、戦略と施策のつながりが設計されていないことが原因です。Sells upは現状の分析と改善の優先順位整理から支援します。
相談してみる →まとめ
社内に知見がない中でBtoBマーケティングを立ち上げるときは、まず何を、どの企業に、どう売るかを言葉にします。この整理に数か月かかることを前提に計画し、売るものを言葉にしてから、リードの獲得、管理、連絡、育成の順に1つずつ足していきます。
日本テレビアート様では、施策を決めるまでに約10か月かかりましたが、その後は広告とコンテンツからリードを獲得し、顧客管理ツールで管理し、インサイドセールスで連絡し、メールで関係を続ける形に進みました。
外部の支援を受ける場合も、判断とデータは社内に残し、定例の場で学びながら社内のメンバーが自分で操作します。狙う企業が限られる場合や受注の大半が紹介から生まれる場合は、部署を新設する前に営業の活動の中でできることから始めます。
よくある質問
知見がない場合は、何から始めればよいですか?
何を、どの企業に、どう売るかを言葉にすることから始めます。広告やツールを先に決めると、外部の担当者にも社内にも説明ができず、成果につながりにくくなります。既存のサービスの価値を言葉にし直すだけでも、最初の段階としては十分です。
立ち上げから成果が出るまで、どのくらいかかりますか?
一律の目安はありません。商材の単価や検討の期間、最初の段階の整理にかかる時間で大きく変わります。日本テレビアート様では、施策を決めるまでに約10か月かかり、その後のリード獲得で初年度から多い月に100件以上のリードを獲得できるようになりました。
最初からMAツールを入れるべきですか?
最初から入れる必要はありません。リードを集める入口ができてから、管理する項目が増えてスプレッドシートでは追いにくくなった時点で、顧客管理ツールやMAツールへ移します。導入の時期の判断は、MA導入のタイミングの判断軸で解説しています。
未経験のメンバーだけで立ち上げることはできますか?
できます。日本テレビアート様の部署も、営業やマーケティングの経験がないメンバーから始まりました。最初の段階の整理と、施策の設計で外部の知見を借りつつ、社内のメンバーが自分で操作する機会を作ると、少しずつ知見が残ります。
外部の支援会社には何を任せ、社内には何を残すべきですか?
広告の運用や制作、ツールの設定などの作業は任せてもかまいません。どの企業を狙うか、何を成果とするか、施策を続けるか止めるかの判断と、アカウントや顧客のデータは社内に残します。
営業が兼任のまま、マーケティングを始めてもよいですか?
始めてかまいません。兼任の場合は、扱う施策を1つに絞り、週に使える時間の中で回せる範囲から始めます。少人数での運営の進め方は、少人数のマーケティングチームの運営手順で解説しています。
