MAツールを乗り換えると、氏名や会社名などの基本情報は移せても、行動の履歴、スコアの配点、シナリオ、フォームやランディングページは、同じ形では移せないことが多くあります。失わないためには、移せないものを先に洗い出して記録し、配信停止の情報を最初に移し、旧ツールを解約する前に履歴を書き出して保管し、止めてはいけない配信から作り直します。
MAツールの乗り換えでは、ツールの機能を比べているときよりも、移行作業で失敗が起きやすいものです。移行後に「過去の行動が見られない」「スコアがすべて0に戻った」「配信を止めていた相手にメールが届いた」と気づいても、元に戻せないことがあります。
本記事では、100社以上のBtoBマーケティングを支援してきたSells upが、MAツールの乗り換えで引き継げないもの、失わないための進め方、移行後の数か月で見ることを解説します。ツールを選ぶ段階で確かめる点はBtoBのMAツール選定で見るポイントで扱っています。
MAツールを乗り換えると、何が引き継げて何が失われるのか?
リードの基本情報は移せる場合が多い一方で、ツールの中で記録・計算されたものや、ツールの中で作った仕組みは、作り直しになることがよくあります。主なデータの扱いは次のとおりです。
| データ・設定 | 移行での扱い | 注意すること |
|---|---|---|
| 氏名・会社名・メールアドレスなどの基本情報 | 書き出して取り込めることが多い | 項目名と選択肢の値を、移行先に合わせて対応づける |
| 配信停止・不達の情報 | 移せるが、取り込み方に注意が要る | 通常の取り込みとは別の方法を用意しているツールがある |
| メールの開封・クリック、Webサイトの閲覧などの行動の履歴 | そのまま移せないことが多い | 書き出して別に保管し、旧ツールの解約前に取り出しておく |
| スコア | 点数は移せても、配点のルールは作り直し | 行動の履歴が移らないと、移行直後のスコアは低く出る |
| シナリオ・ステップメール | 作り直し | 条件・間隔・文面を記録してから作り直す |
| フォーム・ランディングページ | 作り直し | URLが変わる場合は、旧URLからの転送と計測の切り替えが要る |
| CRM・SFAとの連携 | 設定し直し | どの項目をどちらの値で上書きするかを決め直す |
扱いは製品と契約によって異なります。Salesforceの公式ヘルプでは、Account Engagementの行動の履歴はAPIで書き出せるものの、別のAccount Engagementのアカウントには取り込めず、移行先では空の状態から始まると説明されています。Engagement Studioのプログラム、フォーム、フォームハンドラー、ランディングページ、自動化ルール、動的リストも書き出せず、作り直しが必要とされています(出典:Salesforce ヘルプ)。
Account EngagementからHubSpotのように別の製品へ移る場合も、基本情報、配信停止、リストの条件、フォーム、メール、シナリオを分けて扱います。Engagement Studioのプログラムやフォームは、移行先の仕組みにそのまま置き換わるわけではないため、条件、待つ日数、除外する条件、送信後の処理を書き出してから作り直します。旧ツールのスコアやIDは参照用の項目として別に持たせると、移行後の判定と過去の記録が混ざりにくくなります。
なぜ行動の履歴とスコアは失われやすいのか?
行動の履歴は、MAツールがWebサイトに置いた計測用タグとCookieを通じて、そのツール内に記録されるためです。スコアは、その履歴と、ツール内で設定した配点ルールをもとに計算されます。
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行動の履歴は、ツールごとに記録の形式が違い、別のツールの履歴として取り込む仕組みがないことが多い
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計測用タグを新しいツールのものへ差し替えると、Webサイトを訪れた人とメールアドレスの結びつきを、新しいツール側で改めて作り直すことになる
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スコアの点数だけを移しても、配点ルールが変わると、その後の点数の付き方は移行前と同じにはならない
そのため、移行直後は、営業へ渡す条件にスコアを使っている場合ほど影響が出やすくなります。過去に何度も資料を読んでいたリードでも、移行先では行動のない状態から数え直されるためです。
乗り換えで失わないためには、何から進めればよいか?
移せないものを記録し、法令に関わる情報を先に移し、履歴を保管してから、止めてはいけない配信を優先して作り直します。次の5つの順で進めます。
手順1:今の設定を記録する
作り直しが必要なものは、旧ツールを使えるうちに中身を書き残します。記録しておく主なものは次のとおりです。
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スコアの配点と、営業へ渡す条件
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シナリオとステップメールの条件・間隔・文面
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リストを作る条件と、使っている場面
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フォームの項目と、送信後に動く処理
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CRM・SFAと連携している項目と、どちらの値を優先しているか
設定を記録したら、移行元と移行先の項目名を並べた対応表を作ります。会社名、部署、役職、流入元、同意を得た日、旧ツールのIDなどを並べ、取り込み先の形式、選択肢の置き換え、空欄の扱い、どちらの値で上書きするかを決めます。対応表がないまま取り込むと、移行後にリストやセグメントの条件が変わり、想定していない相手へ配信されるおそれがあります。
記録してみると、使われていない設定も見つかります。すべてを移すのではなく、移行先で作り直すものを選ぶ機会にもなります。
手順2:配信停止と不達の情報を先に移す
配信を止めるよう申し出た相手に広告や宣伝のメールを送ることは、特定電子メール法で禁じられています。移行先でメールを送り始める前に、配信停止と不達の情報を移しておきます。
移し方はツールによって違います。HubSpotでは、配信停止の一覧を通常の取り込みとは別に、「配信停止の一覧」として取り込む方法が用意されています(出典:HubSpot ナレッジベース)。取り込んだ後は、その相手が配信の対象から外れているかを、本番の配信の前にテスト配信で見ておきます。
手順3:行動の履歴を書き出して保管する
行動の履歴を移行先へ取り込めない場合でも、旧ツールから書き出して保管しておけば、商談の前に過去の関心を調べたり、移行前後の比較に使ったりできます。旧ツールを解約するとデータに触れられなくなることがあるため、解約の日と、解約後にデータを取り出せる期間を、契約の条件と照らして先に押さえます。
保管する履歴は、後で使う場面から逆算して項目を絞ります。メールの開封・クリック、フォームの送信、資料名、ページのURL、日時、旧ツールのリードID、メールアドレスを残しておくと、商談の前に過去の関心を調べたり、移行の直後にどの配信やシナリオを優先して作り直すかを決めたりする材料になります。
手順4:止めてはいけない配信から作り直す
すべてのシナリオを同時に作り直すと、移行に時間がかかり、その間に配信が止まります。資料請求の後のメールや、検討中のリードに送っているステップメールなど、止まると商談の機会を失う配信から作り直します。
株式会社ブリューアス様では、Account Engagementを運用していたところ、グループ全体でMAツールの運用方法を見直すことになり、マスターデータやリード情報の項目などの基本設定をリセットしなければならない事態になりました。Account Engagementのアカウントを移行するとアクティビティのデータは引き継げないため、移行後もステップメールを配信できるよう、最低限の設定を守ることを優先しました。

手順5:フォーム・URL・計測を切り替える
フォームやランディングページのURLが変わる場合は、旧URLから新しいURLへ転送を設定し、広告やメールに載せているリンクも差し替えます。計測用のタグは、旧ツールのものを外す日と新しいツールのものを入れる日をそろえ、記録が途切れる期間を作らないようにします。送信に使うドメインの認証(SPF・DKIM・DMARC)も、移行先のツールに合わせて設定し直します。設定の手順はMAツールの初期設定の手順で解説しています。
本番の配信に入る前に、社内のメールアドレスで一連の動きを試します。フォームを送信してリードが作られ、CRM・SFAへ渡り、通知や自動返信が動くかを見ます。配信停止にしたテスト用のアドレスを用意し、配信の対象から外れるかも見ます。広告、メール、資料の中のリンクに旧URLが残っていないかも洗い出します。
新旧のツールを並行して動かす期間は、二重に費用がかかります。並行期間の長さは、作り直すシナリオの数と連携の範囲から見積もり、旧ツールの契約の更新日に間に合うように逆算します。
移行後の数か月は、何を見ればよいか?
移行直後は行動履歴が少ないため、数字を移行前と同じ基準では比べられません。次の点を見ます。
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スコアが全体に低く出るため、営業へ渡す件数が急に減っていないか。減っている場合は、スコアだけでなく、資料請求やデモの申し込みなどの行動も営業へ渡す条件に入れておく
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配信停止の相手にメールが届いていないか
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フォーム送信がCRM・SFAへ正しく渡っているか
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開封率やクリック率を、移行前の数字と同じ基準で比べていないか。ツールによって数え方が違うことがある
営業にも、移行直後はスコアが低く出ることを伝えておくと、点数だけでリードの優先度を判断し、見落としてしまうことを防げます。スコアの考え方はリードスコアリングの設計の進め方で解説しています。
乗り換えを急がなくてよいのは、どんな場合か?
成果が出ない理由がツールの機能ではなく、設定や運用にある場合は、乗り換えても同じ問題が残ります。次のような場合は、乗り換えの前に今のツールの使い方を見直します。
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営業へ渡す条件やシナリオが固まっておらず、どのツールでも同じ設定をすることになる
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移行の作業を担う人の時間を取れず、移行が途中で止まるおそれがある
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不満が料金だけで、使っていない機能を外すなど、契約の見直しで済む
一度選んだツールを使い続けなければならないわけではありませんが、乗り換えにはデータと設定の作り直しが伴います。見直しの考え方はMAツールの選び方と見直しの考え方で扱っています。
「やっているのに成果が出ない」状態から抜け出すために
施策を続けているのに商談が増えない、リードの質が上がらない。こうした課題の多くは、戦略と施策のつながりが設計されていないことが原因です。Sells upは現状の分析と改善の優先順位整理から支援します。
相談してみる →まとめ
MAツールの乗り換えでは、基本情報は移せても、行動の履歴、スコアの配点、シナリオ、フォームやランディングページは同じ形では移せないことが多いです。扱いは製品によって異なるため、移行先と移行元の公式の説明で確かめます。
失わないためには、今の設定を記録し、配信停止や不達の情報を先に移します。そのうえで、行動の履歴を解約前に書き出して保管し、止めてはいけない配信から作り直します。フォームのURL、計測用のタグ、送信ドメインの認証も切り替えます。
移行の直後は行動の履歴が少なく、スコアが低く出ます。営業へ渡す条件にはスコア以外の行動も入れ、移行前後の数字は分けて見ます。
よくある質問
MAツールの移行には、どのくらいの期間がかかりますか?
作り直すシナリオやフォームの数、CRM・SFAとの連携範囲によって変わるため、一律の目安はありません。今の設定を記録した段階で作り直すものの量が分かるので、その量をもとに見積もり、旧ツールの契約更新日に間に合うように逆算します。
行動の履歴をどうしても残したい場合は、どうすればよいですか?
旧ツールから書き出せる範囲で書き出し、CRMやデータの保管先に残しておきます。移行先のツールに取り込めない場合でも、商談の前に過去の関心を調べるときや、移行前後の比較に使えます。書き出せる範囲と形式はツールによって違うため、解約の前に試しておきます。
スコアは移行先に引き継げますか?
点数を項目として移すことはできても、配点のルールと元になる行動の履歴は作り直しになることが多く、移行前と同じ点数の付き方にはなりません。移行の直後は、スコアだけに頼らず、資料請求やデモの申し込みなどの行動でも営業へ渡す条件を置きます。
旧ツールはいつ解約すればよいですか?
配信停止の情報と行動の履歴を書き出し、止めてはいけない配信が移行先で動いていることを見届けてから解約します。解約後はデータに触れられなくなる場合があるため、契約の条件で、解約後にデータを取り出せる期間を確かめておきます。
