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BtoBマーケティングオートメーション(MA)成功事例7選・課題別分析|ROIを高める導入準備・統計的スコアリング・ツール選定

MAツールの導入・活用の相談はSells upへ。

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目次

BtoBビジネスにおいて、マーケティングオートメーション(MA)の導入は、リードナーチャリング(見込み顧客の育成)の効率化、営業部門との連携強化、そして最終的な収益向上を実現するための重要な手段となっています。多くの企業がMA導入によって事業成長を加速させている一方で、高額な投資に対して十分なROI(投資対効果)を得られていないケースも散見されます。

MA導入の成否は、ツールの機能差よりも、導入前の準備と運用設計によって大きく左右されます。特にBtoBにおいては、複雑な意思決定プロセスと長い検討期間を考慮した戦略が不可欠です。

本記事では、BtoB企業が直面しやすい課題別に厳選したMA成功事例を詳細に分析します。各事例の具体的な施策、測定可能な成果に加え、成功を支えた「導入前の準備」や「組織的要因」にまで踏み込み、貴社での再現性を高めるための具体的な道筋を解説します。さらに、ROIの算出方法やBtoB向けMAツールの選定基準についても詳述します。

BtoBマーケティングオートメーション(MA)厳選成功事例7選と課題別分析

ここでは、BtoB企業がMA導入によって成果を上げた7つの事例を紹介します。単なる結果だけではなく、「成功の再現性を高めるための組織的な工夫は何か」を、以下の課題分類に沿って解説します。

BtoBマーケティングオートメーション主要成功事例サマリー

課題分類

業界

企業名

主な成果

成功のポイント(組織的要因・再現性のために)

営業効率化

電機メーカー

NEC

メールクリック率が7倍に向上

営業フィードバックを基にしたスコアリング基準の継続的な見直し体制の構築。

リソース不足解消

システム開発

株式会社アイアットOEC

担当者2名体制で商談数を8倍に増加

定型的なフォロー業務(ステップメール)からのスモールスタートによる自動化(優先順位付け)。

リソース不足解消

ITコンサル

アーティサン株式会社

受注率が9%から30%へ向上

MA導入を機とした営業フロー全体の可視化と業務プロセス自体の見直し。

新規リード獲得

製造業

株式会社関東製作所

年間問い合わせ数が3.5倍に増加

MAのトラッキング機能を活用した、Webサイト訪問者を逃さない動線設計。

新規リード獲得

Webマーケ

G社

新規顧客獲得数を8倍に増加

リード獲得(SEO・Web施策)とリード育成(MA)を一気通貫で設計した点。

営業手法最適化

建設サービス

TAKAYAMA

新入社員の早期戦力化(入社3ヶ月で受注)

MAデータとインサイドセールス(IS)の組み合わせによる営業プロセスの標準化。

営業手法最適化

広告事業

表示灯株式会社

契約数前年比1120%達成

マーケティング・IS・フィールドセールス(FS)の密な連携と共通KPIの共有体制構築。

課題1:営業プロセスの属人化・非効率を解消した事例

営業担当者が個人の経験や勘に依存するスタイルは、効率が悪く、成果のばらつきも大きくなります。MAによるデータ主導での効率的な営業体制を構築した事例です。

事例1:NEC(電機メーカー)|スコアリング精度向上でメールクリック率が7倍に

大手電機メーカーのNECでは、保有する膨大なリードに対し、画一的なメールマーケティングを行っており、反応率の低下が課題となっていました。

  • 導入前の課題と状況

    • リードの興味関心や検討段階が把握できず、セグメントに応じたアプローチができていなかった。

    • メールの開封率・クリック率が低下傾向にあった。

  • MA導入による施策

    • スコアリング機能を活用し、リードの属性(業種、役職など)と行動(特定の製品ページ閲覧、ホワイトペーパーのダウンロードなど)に応じてリストを細分化。

    • 確度の高いセグメントに絞り、関連性の高いコンテンツ(技術資料や事例など)を配信。

  • 成果:メールのクリック率が従来比で約7倍に向上。ホットリードの可視化が進行。

  • 成功のポイント:導入初期からスコアリングの精度向上に注力し、継続的なPDCAサイクルを確立。特に、営業部門からのフィードバック(どのリードが商談化し、受注に至ったか)を収集し、スコアリング基準を継続的に見直す体制を構築したことが、精度向上に貢献しました。

出典:Oracle Marketing Cloud導入事例:日本電気株式会社様

【Sells upの視点】スコアリングは「行動の足し算」から「統計的アプローチ」へ

事例1のようにスコアリングはMA活用の中心的な機能ですが、多くの企業が「資料ダウンロードで10点」「料金ページ閲覧で5点」といった、担当者の主観に基づいた「行動の足し算」に留まっています。しかし、これでは営業部門が求める「受注確度の高いリード」を正確に抽出することは困難です。

Sells upでは、スコアリング設計において統計的なアプローチを推奨しています。具体的には、過去の受注データ(SFA/CRMのデータ)とMA上の行動データを掛け合わせ、「どのような行動パターンをとったリードが受注に繋がりやすいか」を統計的に解析(相関分析や回帰分析など)します。

例えば、「特定の業界のリードが、導入事例AとウェビナーBを視聴した場合、受注率が平均の3倍になる」といった相関関係を特定し、それをスコアリングモデル(予測モデル)に反映させます。

このアプローチにより、担当者の主観を排除し、データに基づいた客観的で精度の高いホットリード抽出が可能になります。これが、営業部門が納得し、積極的にフォローしたくなるMQL創出の基盤となります。

課題2:リソース不足を自動化で乗り越えた事例(中小・中堅企業向け)

マーケティング専任担当者が少人数、あるいは兼任体制である中小・中堅企業にとって、MAによる自動化は有効な手段となります。限られたリソースで成果を出した事例です。

事例2:株式会社アイアットOEC(システム開発)|担当者2名体制で商談数を8倍に増加

システム開発を行うアイアットOECでは、マーケティング担当者とインサイドセールス担当者の合計2名という体制で、複数の商材を拡販する必要がありました。

  • 導入前の課題と状況

    • 少人数体制のため、リードへのフォローが追いつかず、機会損失が発生していた。

    • 手作業によるメール配信やリスト作成などの業務負荷が高かった。

  • MA導入による施策

    • 無料トライアル顧客へのフォローアップ(利用促進を促すステップメール)を自動化。

    • 各商材ごとにシンプルなシナリオを設計し、リードの検討段階に合わせた情報提供(使い方ガイドやFAQなど)を仕組み化。

  • 成果:商談数は従来の8倍に増加。生産性が向上。

  • 成功のポイント:最初から複雑な自動化を目指さず、最も工数がかかっていた「定型的なフォロー業務」(スモールスタート)から自動化を実施。これにより、担当者はコンテンツ企画やデータ分析といったコア業務に集中できるようになりました。リソースが限られている場合、施策の優先順位付けが重要です。

出典:人数は変わらず商談を8倍に。(株式会社シャノン)

事例3:アーティサン株式会社(ITコンサル)|業務プロセス見直しと自動化で受注率9%から30%へ

ITコンサルティングを手掛けるアーティサン株式会社も、リソース不足による機会損失に悩んでいました。

  • 導入前の課題と状況

    • 問い合わせ後のフォローが属人化しており、対応漏れや遅延が発生していた。

    • 受注率が9%と伸び悩んでいた。

  • MA導入による施策

    • MA導入と同時に、問い合わせから商談化までの業務プロセスの見直しを実施。

    • シナリオメールによるフォロー自動化や、顧客の属性・興味関心に応じて最適なコンテンツ(事例、技術情報など)を自動でレコメンドする仕組みを構築。

  • 成果:問い合わせ数が2倍に増加し、受注率が9%から30%へと向上。

  • 成功のポイント:単にツールを導入するだけではなく、営業フロー全体を可視化し、どの部分をMAで効率化し、どの部分を人的に対応すべきかを明確に切り分けた点が最大のポイントです。MA導入を、属人的な業務フローを標準化する機会として捉えたことが成功要因です。

出典:問い合わせ数が2倍、受注率も9%から30%に大幅アップ!|アーティサン株式会社様(BowNow)

課題3:新規リード獲得をWeb起点で加速させた事例

MAは獲得したリードを育成するだけではなく、Webサイトと連携させることで、新規リード獲得自体を加速させることも可能です。

事例4:株式会社関東製作所(製造業)|Webサイトの動線改善で年間問い合わせ数が3.5倍に

プラスチック製品メーカーの関東製作所では、新規リード獲得数の伸び悩みが課題でした。

  • 導入前の課題と状況

    • Webサイトへのアクセスはあるものの、問い合わせや資料請求に至らないケースが多かった(CVRが低い)。

    • 訪問者がどのような情報に関心を持っているか把握できていなかった。

  • MA導入による施策

    • MAツールを活用し、Webサイト訪問者の行動履歴(閲覧ページ、滞在時間など)をトラッキング。

    • 特定のページを閲覧した訪問者に対し、適切なタイミングで関連資料ダウンロードやセミナー案内を提示するポップアップ施策を強化。

  • 成果:年間問い合わせ件数が100件から350件以上へと、3.5倍に増加。

  • 成功のポイント:Webサイト訪問者を逃さず、次のアクションを促す動線を設計。MAのトラッキング機能を活用し、ユーザーの関心が高まった瞬間を捉える工夫が成果に繋がりました。

出典:株式会社関東製作所様 導入事例(SATORI)

事例5:Webマーケティング事業 G社|WebコンテンツとMA連携で新規顧客獲得数を8倍に

Webマーケティング事業を展開するG社は、Webサイト経由での新規顧客獲得効率を高める必要がありました。

  • 導入前の課題と状況

    • Webサイトからのリード獲得施策が体系化されておらず、コンテンツが点在していた。

  • MA導入による施策

    • Webサイトのリニューアルと同時にMAを導入。

    • 検索エンジン最適化(SEO)を意識したコンテンツの拡充と、獲得したリードに対するナーチャリングシナリオを一気通貫で設計。

    • ユーザーの行動データを起点としたコンテンツ改善を実施。

  • 成果:新規顧客獲得数を8倍にまで伸ばすことに成功。

  • 成功のポイント:リード獲得(Web施策・コンテンツマーケティング)とリード育成(MA)を分断せず、統合的に設計。MA導入を前提にWebサイトの構造やコンテンツを見直すことで、相乗効果が生まれました。

課題4:営業手法そのものを最適化した事例(インサイドセールスとの連携)

営業効率を高めるインサイドセールスとMAを組み合わせることで、営業プロセス全体の最適化を実現した事例です。

事例6:TAKAYAMA(建設サービス)|インサイドセールス+MAで新入社員が早期に成果創出

建設業界向けサービスを手掛けるTAKAYAMAでは、営業効率の改善と新人の早期戦力化が課題でした。

  • 導入前の課題と状況

    • 営業プロセスが属人化しており、新人教育に時間がかかっていた。

    • 経験豊富な営業担当者のノウハウが標準化されていなかった。

  • MA導入による施策

    • インサイドセールス部門を立ち上げると同時にMAを導入。

    • MAで抽出した確度の高いリードに対し、インサイドセールスが架電する体制を構築。

    • MA上でリードの行動履歴が可視化されるため、インサイドセールスは事前準備をした上で的確なヒアリングが可能に。

  • 成果:営業経験の浅い新入社員でも、入社3ヶ月で140万円の受注を獲得するなど、早期の戦力化を実現。

  • 成功のポイント:MAによる客観的なデータと、インサイドセールスによる人的なアプローチを組み合わせが営業プロセスの標準化に繋がり、経験の浅いメンバーでも一定の成果を出せる体制構築に貢献しました。

出典:MA導入後3ヶ月で新入社員が140万円の受注を獲得!|TAKAYAMA様(BowNow)

事例7:表示灯株式会社(広告事業)|全社的な営業プロセスの最適化で契約数前年比1120%

広告事業を展開する表示灯株式会社では、従来の訪問主体の営業スタイルからの脱却を目指していました。

  • 導入前の課題と状況

    • 新規開拓の効率が悪く、営業コストがかさんでいた。

    • 属人的な営業手法により、組織として成果を予測することが難しかった。

  • MA導入による施策

    • インサイドセールス部門とMAの連携を強化。

    • MAによるリードナーチャリングと、インサイドセールスによるタイムリーなフォローアップを組み合わせ、確度が高まった段階でフィールドセールスが訪問するという分業体制(The Model型)を構築。

  • 成果:営業効率が向上し、契約数は前年比1120%という成果を達成。

  • 成功のポイント:マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスが密に連携し、共通のKPI(MQL数、商談化数、受注数など)を共有する体制を整備したという組織的な取り組みが要因です。MA導入を全社的なプロジェクトとして推進し、経営層のコミットメントを得たことが重要です。

出典:営業方法を変えただけで契約数が前年比1120%に!|表示灯株式会社様(BowNow)

業界別に見るBtoB MA活用傾向と成功のポイント

MAの活用方法は、業界ごとのビジネスモデルや顧客の特性によって異なります。ここでは、代表的なBtoB業界におけるMA活用の傾向とポイントを解説します。

SaaS・サブスクリプションビジネス

  • 特徴:リード獲得から受注までのサイクルが比較的短く、オンラインでの接点が中心。LTV(顧客生涯価値)を重視するため、導入後のサポート(カスタマーサクセス)も重要。

  • MA活用法

    • 無料トライアルやデモ申込者に対する、利用促進とアップセルを目的としたステップメールの自動化。

    • Webサイト上の行動履歴に基づいた、精緻なスコアリングとインサイドセールスへの迅速な連携。

    • 解約(チャーン)の兆候を検知し、カスタマーサクセスへアラートを出す仕組み。

  • 成功のポイント:スピード感のあるPDCAサイクルと、部門間(マーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセス)のデータ連携が重要です。

製造業・メーカー

  • 特徴:製品の単価が高く、検討期間が長い。意思決定に関わる人数が多い。展示会や対面営業の比重が高い傾向にある。

  • MA活用法

    • 展示会で獲得した名刺情報をデジタル化し、MAで一元管理。フォローメールや定期的な情報提供で関係を維持。

    • 技術資料、CADデータ、導入事例といった専門性の高いコンテンツを用いた長期的なナーチャリング。

    • 特定の製品ページを閲覧しているリードを抽出し、担当営業へ通知する。

  • 成功のポイント:散在しがちな顧客データを統合管理し、長期的な視点で顧客との接点を維持する仕組み作りが重要です。

ITコンサルティング・システム開発

  • 特徴:顧客の課題に応じたソリューション提案が中心。専門性や信頼性の訴求が重要。

  • MA活用法

    • ウェビナー(Webセミナー)の集客、参加者へのフォローアップ、アーカイブ配信の自動化。

    • 課題別・業界別の導入事例コンテンツを拡充し、リードの関心に応じたセグメント配信。

    • 過去の失注顧客に対する定期的なアプローチと再商談化の促進。

  • 成功のポイント:高品質なコンテンツを継続的に作成・配信できる体制構築と、顧客の課題を深く理解したシナリオ設計が重要です。

成功事例から導き出す、BtoB MA導入・運用「成功の3原則」

紹介した事例を分析すると、MA導入で成果を出している企業には共通する「3つの成功原則」が存在します。これらは、MAを事業成長の手段とするために不可欠な要素です。

原則1:事業目標から逆算した「目的設定」と「KPI設計」

MA導入で成果を上げている企業は、「MAを使って何を実現したいのか」を明確に言語化しています。目的が曖昧なまま導入すると、多機能なMAツールのどの機能を使うべきか判断できず、「高価なメルマガツール」で終わるリスクがあります。

成功企業が行っている具体的なKPI設定例

事業目標(KGI)から逆算し、MA施策で追うべきKPIを設定します。

  • 目的:商談化率の向上

    • KGI:受注額、受注件数

    • KPI:MQL創出数、MQLからの商談化率、商談化までの期間短縮

  • 目的:休眠リードの掘り起こし

    • KGI:休眠リードからの受注額

    • KPI:休眠リードのアクティブ化率(Web再訪問数、メール開封数)、再商談化数

  • 目的:営業の生産性向上

    • KGI:営業担当者一人当たりの売上高

    • KPI:ホットリードへのアプローチ率、リードフォロー工数の削減時間

具体的な数値目標を設定することで、運用の軸が定まり、施策の評価や改善がスムーズになります。

原則2:マーケティングと営業の「連携体制」の構築

BtoBマーケティングの成果は最終的な受注で測られるため、マーケティング部門と営業部門の連携強化が不可欠です。成功企業は、部門間の壁を取り払い、共通の目標に向かう体制を構築しています。

MQL(質の高いリード)の定義と連携の具体的な手順

MQLの定義を明確にし、営業部門と認識を合わせることが、連携の基盤となります。

  • Step.1 現状分析:過去の受注データや営業担当者へのヒアリングから、「どのような属性・行動のリードが受注しやすいか」を分析します。

  • Step.2 MQL基準の仮設定:分析結果に基づき、スコアリング基準と引き渡し基準を設定します。

  • Step.3 営業部門とのすり合わせ:設定した基準を営業部門に提示し、「この基準で抽出されたリードはフォローしたいか」を確認し、認識を合わせます。

  • Step.4 定期的な見直し:運用開始後、実際の商談化率や受注率を見ながら、定期的に基準を見直します。

連携を促進する具体的なアクションプラン

「連携が重要」と述べるだけではなく、具体的な行動が必要です。

  • 定例会議の実施:週次または月次でミーティングを設定し、MQL創出数、営業からのフィードバック(リードの質)、成功事例、次月の施策計画などを共有します。

  • データ連携基盤の構築(SFA/CRM連携):MAとSFA/CRMを連携し、リードの行動履歴、スコアリング情報、商談進捗状況を双方向で可視化します。

【Sells upの視点】連携のポイントは「データ基盤の統合」と「データガバナンス」

マーケティングと営業の連携を仕組み化するためには、MQL定義の明確化に加え、MAとSFA/CRM間のデータ連携基盤の構築が不可欠です。

MA側で把握した「リードの興味関心やWeb行動履歴」をSFA側に連携し、逆にSFA側で記録した「商談の進捗状況や失注理由」をMA側にフィードバックする。この双方向のデータフローを設計することが建設的な連携の基盤となります。

また、連携させる際には、どのデータを、どのように同期させるかといった「データガバナンス(管理ルール)」の設計が重要です。例えば、リード情報の重複(名寄せ)ルールの設定や、各項目の入力規則の統一などが挙げられます。データが正しく管理されていない状態では、精度の高い分析や連携は実現できません。

原則3:顧客理解に基づく「シナリオ設計」と「コンテンツの活用」

MAの運用で成果を出すためには、顧客の検討段階ごとに適切なコンテンツを用意し、継続的に届けることが不可欠です。どれほど優れたツールを導入しても、顧客のニーズに合致した情報がなければ成果にはつながりません。

成果に直結するシナリオ設計の具体例

最初から複雑なシナリオを組む必要はありません。シンプルな設計から始めて(スモールスタート)、データをもとに段階的に拡張していくことが、運用定着のポイントです。

  • シナリオ例1:資料請求後のフォローアップ自動化

    • 起点:特定の資料(例:サービス紹介資料)をダウンロード

    • Step.1:お礼メール送信(即時)

    • Step.2:関連する導入事例コンテンツを送信(3日後)

    • Step.3:課題ヒアリングや個別相談会への誘導メールを送信(7日後)

    • 分岐:メール開封やリンククリックがあればスコア加算し、インサイドセールスへ通知。

MA運用開始前に最低限準備すべきコンテンツリスト

コンテンツの質と量が、MA施策の成果を左右します。「まずは3~5本の柱となるコンテンツ」を用意しましょう。

  • 検討初期(情報収集層)向け:業界動向レポート、初心者向けガイド、チェックリスト

  • 検討中期(比較検討層)向け:導入事例集(業界別、課題別)、製品・サービスの比較資料、機能詳細資料

  • 検討後期(意思決定層)向け:よくある質問(FAQ)、導入の流れ、料金表

【Sells upの視点】コンテンツ作成リソース不足を解消する「再利用」の重要性

MA運用において「コンテンツ不足」は多くの企業が直面する課題です。ゼロから新しいコンテンツを継続的に作成するには多大なリソースが必要となります。

そこで重要となるのが、既存のコンテンツ資産を「再利用する」という考え方です。例えば、1本のウェビナー資料を基に、ブログ記事、チェックリスト、導入事例など、複数の形式のコンテンツに展開します。また、過去の営業提案資料の中にも、顧客にとって有益な情報が眠っているケースが多くあります。

既存資産を棚卸し、MAのシナリオに合わせて再利用することで、効率的にコンテンツを拡充し、ナーチャリングの精度を高めることが可能です。

MA導入のROI(投資対効果)をどう見積もるか

MAツールは高額な投資となるため、導入検討段階でROIをどのように見積もるかが重要な論点となります。成功事例の数値を参考にしつつ、自社の状況に置き換えてシミュレーションする必要があります。

ROI計算の基本的な考え方

MA導入のROIは、以下の計算式で算出されます。

ROI = (MA導入によって得られた利益 - MA導入・運用コスト) ÷ MA導入・運用コスト × 100 (%)

MA導入によって得られる利益の算出方法

MA導入による利益は、主に「売上向上効果」と「コスト削減効果」の2つの側面から見積もります。

  1. 売上向上効果の見積もり

    • 現状の主要なKPI(リード数、商談化率、受注率、平均受注単価)を把握します。

    • MA導入によって、どのKPIがどの程度改善するかを予測します。(例:商談化率が5%から10%に向上)

    • 改善後のKPIを基に、将来的な売上増加額を算出します。

    • 予測売上増加額 = リード数 × 改善後の商談化率 × 改善後の受注率 × 平均受注単価

  2. コスト削減効果の見積もり

    • メール配信、リスト作成、営業担当者のフォロー工数など、現状手作業で行っている業務の工数を算出します。

    • MA導入による自動化で、どの程度の工数が削減できるかを予測し、金額に換算します。

MA導入・運用コストの内訳

コストは、ツール費用だけではなく、人的コストも考慮する必要があります。

  • 初期コスト:MAツールの初期導入費用、導入支援コンサルティング費用、SFA/CRMとの連携開発費用など。

  • ランニングコスト:MAツールの月額(年額)利用料、運用担当者の人件費、コンテンツ作成費用(外注費含む)など。

ROIシミュレーションの具体例

(例)従業員150名の中堅SaaS企業の場合

  • 現状:リード数10,000件、商談化率5%、受注率20%、平均受注単価100万円

    • 年間売上 = 1億円

  • MA導入後(予測):商談化率が5%から8%に向上

    • 予測年間売上 = 1億6,000万円(売上増加額6,000万円)

  • MA導入・運用コスト(年間):ツール費用400万円、運用人件費600万円 = 合計1,000万円

  • ROI計算

    • (6,000万円 - 1,000万円) ÷ 1,000万円 × 100 = 500%

このように、具体的な数値を用いてシミュレーションすることで、社内での導入承認を得やすくなります。重要なのは、現実的な改善予測値を設定し、運用開始後も実績値を計測して精度を高めていくことです。

BtoB向けMAツールの選定と導入プロセス

MA導入を成功させるためには、自社の目的やリソースに合ったツールを選定し、適切なプロセスで導入を進めることが重要です。

主要なBtoB向けMAツール比較

BtoBビジネスで利用される主要なMAツールには、それぞれ特徴があります。

  • HubSpot Marketing Hub

    • 特徴:リード獲得からナーチャリング、効果測定までオールインワンで提供。無料のCRM基盤上に構築されており、SFAやカスタマーサポートツールとの連携もスムーズ。中小企業から大企業まで幅広く対応。

    • 費用感:中〜高

  • Account Engagement(旧Pardot)

    • 特徴:Salesforce(SFA/CRM)との連携に優れている。Salesforceをすでに導入している企業に適している。BtoB向けの機能が充実。

    • 費用感:高

  • Adobe Marketo Engage

    • 特徴:多機能で拡張性が高く、大規模なデータや複雑なシナリオに対応可能。グローバル企業や大企業での導入実績が豊富。

    • 費用感:高

  • 国産MAツール(例:SATORI, BowNowなど)

    • 特徴:シンプルで使いやすいUI/UX。導入コストが比較的安価。まずはスモールスタートしたい中小企業に適している。

    • 費用感:低〜中

自社に合ったMAツールの選び方

ツール選定で失敗しないためには、以下の観点で比較検討することが重要です。

  1. 機能要件:自社が実現したいこと(例:高度なスコアリング、SFA連携、LP作成機能)に必要な機能が備わっているか。

  2. 費用感(コスト):初期費用、月額利用料が予算に見合っているか。リード数に応じた従量課金制かどうかも確認が必要。

  3. 使いやすさ(UI/UX):運用担当者がストレスなく操作できるか。デモやトライアルで確認する。

  4. 連携性:現在利用しているSFA/CRMや他のシステムとスムーズに連携できるか。

  5. サポート体制:導入支援や運用サポートが充実しているか。

MA導入の標準的なプロセスと期間

MA導入は、一般的に以下のプロセスで進みます。導入期間は、要件の複雑さや準備状況によりますが、3ヶ月〜6ヶ月程度が目安となります。

  • Step.1 準備フェーズ(1〜2ヶ月):目的・KPIの設定、現状課題の洗い出し、運用体制の構築、MQL定義の検討。

  • Step.2 ツール選定・契約(1ヶ月):機能比較、ベンダーとの打ち合わせ、契約。

  • Step.3 設計フェーズ(1〜2ヶ月):シナリオ設計、スコアリング設計、コンテンツ準備、データ移行計画。

  • Step.4 実装フェーズ(1ヶ月):MAツールの初期設定、SFA/CRM連携設定、トラッキングコード設置、データインポート。

  • Step.5 運用開始・改善フェーズ:施策の実行、効果測定、定期的な見直し(PDCA)。

BtoB MA導入のよくある失敗事例と、それを回避する具体的解決策

MA導入・運用においては、多くの企業がつまずく共通の失敗パターンが存在します。ここでは、BtoB企業で頻発する失敗事例と、それぞれの解決策を紹介します。

失敗1:運用が属人化し、担当者不在で形骸化する

MA運用が特定の担当者に依存している場合、その担当者が異動や退職で抜けると、施策が止まり形骸化するリスクが高まります。

  • 解決策

    • MA運用のマニュアルや設計書(シナリオ設計の意図、スコアリングの根拠など)をドキュメント化し、ナレッジを組織で共有する。

    • メイン担当とサブ担当を設定するなど、複数人体制で運用する。

    • 定期的なレビュー会議で、進捗や課題を関係者全員で共有する。

失敗2:スコアリングの基準が曖昧で、営業が活用できない

マーケティング部門が主観で設定したスコアリング基準では、営業の実態と乖離し、「スコアは高いのに商談化しない」といった問題が発生します。

  • 解決策

    • スコアリング基準を設定する際は、必ず営業部門の意見を取り入れ、認識を合わせる。

    • 可能であれば、過去の受注データを用いた統計的なアプローチで客観的な基準を設定する。

    • 運用開始後、実際の商談化率や受注率を計測し、定期的に基準を見直すPDCAサイクルを回す。

失敗3:コンテンツ不足でナーチャリングが停滞する

MAを導入したものの、配信するコンテンツが不足し、結局は画一的なメルマガ配信しかできなくなるケースです。

  • 解決策

    • 導入前に最低限必要なコンテンツを準備する。

    • 既存コンテンツ(営業資料、過去のウェビナー資料など)の棚卸しとリパーパス(再利用)を積極的に行う。

    • コンテンツ作成計画を立て、計画的に拡充する体制を構築する。

【Sells upの視点】MA導入は「ツール選定」ではなく「業務改革プロジェクト」

これらの失敗の多くは、ツールを導入すれば課題が解決するという「ツールありき」の思考に起因しています。しかし、MAはあくまで手段です。成功企業は、MAを単なるツールとしてではなく、組織全体で取り組む「業務改革プロジェクト」として捉えています。ツールの選定以前に、「目的の明確化」「部門間の連携強化」「運用体制の構築」といった導入前の準備フェーズに十分な時間をかけることが、失敗を回避するために重要です。

貴社はMAを導入すべきか?成功の再現性を高めるためのチェックポイント

成功事例を参考にしても、「自社でMAを使いこなせるか」という懸念は残ります。ここでは、貴社がMAを導入して成果を出せる段階にあるかを客観的に評価するためのチェックリストを紹介します。

MA導入準備チェックリスト

以下の項目について、貴社の現状を確認してください。チェックが少ない場合は、MA導入前に基盤整備が必要です。

リード資産・データ管理の状況(量と質)

  • □ 過去に獲得したリード(名刺情報、問い合わせリストなど)がデジタルデータとして蓄積されているか?(目安として1,000件以上)

  • □ 月間である程度の新規リード(目安として100件以上)を安定的に獲得できているか?

  • □ リード情報が正しく管理され、一元管理できる状態か?(名寄せやデータクレンジングが済んでいるか)

コンテンツ資産と作成体制の状況

  • □ 自社の強みや製品・サービスの特長を説明できる資料(サービス紹介資料、事例など)があるか?

  • □ 顧客の検討段階に合わせて利用できるコンテンツが3つ以上あるか?

  • □ 定期的に新しいコンテンツを作成、またはリパーパスできる体制や担当者がいるか?

運用リソース・部門間連携の状況

  • □ MA運用の主担当者をアサインし、週に5時間以上の工数を確保できるか?

  • □ マーケティング部門と営業部門が協力的な関係にあり、定期的に情報交換を行う場があるか?

  • □ MQLの定義について、部門間で議論を開始できる状態か?

  • □ 経営層がMA導入の目的と重要性を理解し、長期的な視点で支援してくれるか?

【Sells upの視点】MA導入の「前提条件」を満たしているかの見極めが重要

MA導入で失敗するケースの一つに、「MAを導入するための前提条件」が整っていない状態でツール導入を急いでしまうことがあります。例えば、十分なリード数がなく、コンテンツも不足している状態で高機能なMAを導入しても、成果を出すことは困難です。

成功事例の多くは、導入以前から一定のリード資産やコンテンツ資産、そして組織的な基盤が整っていたケースがほとんどです。もしチェックが少ない場合は、MA導入を急ぐのではなく、まずは基盤整備から着手することを推奨します。

まとめ:成功事例の分析を通じて、再現性の高いMA運用体制を構築するために

BtoBマーケティングオートメーションの導入・運用で成果を上げるためには、他社の成功事例から「自社で再現可能なポイント」を抽出し、自社の状況に合わせて戦略と運用体制を構築することが重要です。MA導入は単なるツールの導入ではなく、組織全体で取り組む業務改革プロジェクトです。

本記事で紹介した事例分析と「成功の3原則」は、貴社がMA導入でROIを高めるための指針となります。

  • 事業目標から逆算した目的・KPIを明確に設定し、ROIを見積もる。

  • マーケティングと営業の連携体制を構築する(MQLの定義、データ基盤の統合、データガバナンス)。

  • 顧客理解に基づき、最適なコンテンツとシナリオを設計する。

  • スコアリングにおいては、統計的なアプローチを取り入れ精度を高める。

そして、自社のリソースや目的に合ったツールを選定し、前提条件(リード数、コンテンツ、リソース)が整っているかを客観的に評価することが不可欠です。

このプロセスを着実に進めることで、MAを「高価なメルマガツール」で終わらせず、事業成長の仕組みとして機能させることが可能になります。まずは自社の現状分析から着手し、MA活用の具体的な計画を立てることをお奨めします。


MAツールの導入・活用の相談はSells upへ。

MAツールの導入や、導入後の成果最大化に課題をお持ちでしたら、ぜひSells upにご相談ください。50社以上の導入・活用を支援してきた担当者が貴社の状況・目標に向き合い、最適なツールの導入プラン / 統計知識を用いた活用プラン描き、戦略策定から実装 / 実行 / 効果測定までをご支援いたします。

株式会社Sells up
武田 大
株式会社AOKIにて接客業を、株式会社リクルートライフスタイル(現:株式会社リクルート)にて法人営業を経験した後、株式会社ライトアップでBtoBマーケティングを担当。その後、デジタルマーケティングエージェンシーにてBtoBマーケティングの戦略設計/施策実行支援、インサイドセールスをはじめとしたセールスやカスタマーサクセスとの連携を通じたマーケティング施策への転換といった支援を行い、2023年に株式会社Sells upを設立。BtoBマーケティングの戦略設計/KPI設計はもちろん、リードジェネレーション施策やナーチャリング、MA/SFA活用を支援し、業界/企業規模を問わずこれまでに約80社以上の支援実績を持つ。Salesforce Certified Marketing Cloud Account Engagement Specialist/Tableau Desktop SpecialistのSalesforce認定資格を保有。